一休和尚の全貌を紹介
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一休和尚の名前と人柄のおおよそを知らない人はない。
本書は「大全」のとおり、一休和尚の生涯に作られた漢詩集『狂雲集』のすべてを訓読で書き下し、現代語訳している。ほとんどが七言絶句で、狂雲とは一休の号である。
この傑僧の愛欲と時代への憤りに貫かれた八十八年の生涯を、これらの作品を通観することで完璧に知悉することができる。なまはんかな解説や小説では一休宗純を捉えることができないものを、実像実作に近い本書で具体的に理解することができる。
一編だけ実例を挙げておこう。
辞世の詩 辞世の詩
十年、花下に、芳盟を理む、 長らく花の下に詩情を理めてきた、
一段の風流、無限の情。 私の一生涯の風流は、無限の情の中にある。
別れを惜しむ、枕頭、児女の膝、 枕辺に侍する女の膝に別れを惜しむ、
夜深く、雲雨、三生を約す。 夜更けの交情を、生まれ替わっても誓う。
この辞世に象徴されているように、仏門の求道者の自分を詠んでいるかと思えば、女色に耽溺する自己を詠むといったように「風狂」の生涯であった。
この逸物、異端僧の実相に伸びやかな現代文で肉迫した待望の一冊。畢生の大書である。