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田中角栄の昭和 (朝日新書)

価格: ¥945
カテゴリ: 新書
ブランド: 朝日新聞出版
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なぜいま角栄いまこそ角栄 ★★★☆☆
田中角栄が死んで15年、晩年を考えれば「昭和の政治家」であり、なぜいま角栄?と先ずは思いました。

その印象は中盤あたりまで払拭できぬままでしたが、次第に作者の意図は見えてきます。
明らかに小沢一郎を重ねているわけです。

角栄以前・角栄以後という区分を日本の戦後政治史で置ける現時点では唯一の政治家だと思います。
小泉純一郎が後にも「小泉の前に小泉なく、小泉の後に小泉なし」的な特異な存在であるのに対して、
角栄的政治の要素は様々な形で政権交代が起きても延々あるいは脈々と続いており、その地下水嶺の本流が小沢一郎。
そう読者に思わせる術は、さすがの保坂さん。

しかし、そんな床屋政談以上の感想を持てないのも、やはり保坂さん。
他のレビュワーさんのようなノスタルジーに浸ることのできない「角栄を知らない世代(たとえば20代)」に本作品は何を伝えられるのだろう?その点で、月並みというかTHE保坂節になっているのは残念。

文章に改めて起こすと内容希薄だが、語りを聞くと引き込まれると本書で何度もいう角栄節。
追いつめられての支離滅裂ないくつかの言葉が、娘の口調で聞こえてくるのは我ながら苦笑。

角栄、現代の価値観の始まり ★★★★☆
 著者の位置付けによれば昭和を代表する首相は、東条英機、吉田茂、そして田中角栄の三人だという。
 戦時体制の構築・突入、戦後体制の確立などを行った二人に対して、田中は戦後の金権政治を作り上げたという位置付けである。
 本書は、田中の生い立ちから実業家として財産を築いた戦前から終戦、そして終戦直後から実業活動で手に入れた資金や基盤を元に政治の場へ出馬して首相へ登り詰め、ロッキード事件で評価を落とし、最期を迎えるまでを丹念に追っている。

 田中については世襲なしで庶民からのし上がった実力派という見方もできるが、本書では、そうした基盤のない人物が首相にまで昇り詰めるまでの荒業や舞台裏について描かれている。
 金のバラまきや我田引鉄方式の人気取りなどは今や当たり前とされる政治家の得票手段だが、田中は取り分けそれを強力に押し進めた草分けであり、所属政党に多くの金を供出していたのも彼であった。
 また、軍隊経験や天皇へのアプローチなどは、田中の特異性を物語るエピソードとして収録されているが、後者は戦後教育を受けた現代人に通じる価値観とも言えそうだ。

 世相や価値観の違いと言えば、日中友好条約の締結などの国際関係に現れている。
 現代では北朝鮮やイランに向けた政策でロシアと中国は足並みを揃えることが多い。だが、当時ではソ連を牽制したい中国がアメリカに接近するために日本と友好関係を結びたかったという内幕は却って新鮮だった。
 印象的だったのは、再び軍国主義化する日本への警戒を訴える中国に対して、経済発展のためそんな余裕はないと切り返したエピソードや、ブレジネフへ領土問題を迫る姿だ。戦後日本の外交を否定する方や著者とは政治的指向が異なる方にも読んで貰いたいエピソードだ。

 内容に難があるとすれば、冒頭以外に田中支持者や、当時田中を支持した有権者の顔や声が見えないことだろう。
 序章にあったロッキード事件の後なおも田中支持を表明した雑貨店店主以外にも、全盛期に支持した者の声なども入れて良かったのではないか。
 田中のばらまきは政治家・有権者問わずに幅広く行われた訳だが、ただ利権だけでなく公共事業による利便性や日銭が死活問題だった生活者にとってはいかなる物だったのか。
 国民の支持を数字や空気ではなく、より具体的にすることで田中の功と罪のコントラストをより鮮明に浮かび上がらせることが出来たと思う。
 田中政権下に生き、多くの方に取材している著者ならではのアプローチをより進めればより良い本になったと思うだけに惜しまれる部分である。
昭和史の一面をうまく切り取った歴史書 ★★★★★
いってみれば田中角栄の伝記ですが、それだけではなく、日本の政治に与えた影響を検証し、戦後の政治史を辿っています。前半はゆっくりと展開し、後半はめまぐるしく状況が動き、やがて収束していきます。
精神的な面に全く関心を払わずに物や金の充足のみを目的とする田中角栄の政治姿勢が、まず政治家や官僚に感染し、やがて国民にも浸透していく経過がわかります。またこの時代を生きていた時に、自分自身の考え方や感じ方がいかにマスコミによって影響されていたかについても強く反省する次第です。また日本人の倫理観が歪められた元凶も知れません。
田中元首相を評して、コンピュータ付きのブルトーザーとは言い得て妙な表現です。それが通過した後に必然的にバブルが生じたともいえるでしょう。
いずれにしても昭和史の一面をうまく切り取った歴史書です。
異形の宰相 ★★★★★
この人が総理大臣になった時、マスコミは「今太閤」「庶民宰相」ともてはやしました。
子供でしたがしっかり覚えています。
その後、立花隆氏の著作で風向きが変わり、「ロッキード事件」でマスコミからは袋叩きです。
世話になった伯父が魚沼郡の生まれなので、角栄以前のあの地方がどんな状況だったかは多少知っています。
冬には医者のいる町まで、若者が数人がかりで山越えして病人を運ぶ。
翌朝着いたら病人は死んでいた。同級生は何人も死に、伯父も死にかけました。
それが角栄さんのおかげでトンネルができ、すぐに病院まで行けるようになりました。
これじゃ地元では神様扱いになります。母親から「お前が助かったのもトンネルができたおかげ。
それを作ってくれたのは角栄先生だ。」と言われるんですから。
しかし、この人のおかしいところは、「金」が目的化したようにみえるところです。
政治をやるために「金」がいるのか、「金」を集めるために政治をするのかわかりません。
当時でも政治家としての能力は評価されていました。日米繊維交渉、日中交渉など、
偏差値秀才の宮沢首相ができなかったことをやりとげています。
それでもおかしい。昭和天皇に対しても何かおかしな対応ぶりだったようです。
「無意識の革命家」だったのかもしれません。
そして、今現在思うのは、この人の薫陶を受けた一人の政治家が、
「金と権力」だけを目的化して政治をやっていることです。
娘の田中真紀子氏もそれに近いものがあります。
なぜ、実の娘と政治的な意味での後継者がこんな状態なのか。
田中角栄の「罪」の部分をこの本で感じました。