具体例が多く、面白く読めた
★★★★☆
環境社会学の学生向け教科書という体裁。部分的に教条的なところも見受けたが、それは半ばやむなしとして、まずその半面での具体例の多さに興味を引かれた。「漠然と出回っている『常識らしきもの』を壊してゆくことは、社会学が伝統的に得意としてきたところであり、そのスリルを味わってもらえたらうれしい」(あとがき)とある通り、たくさんの卓見・指摘・反論が示されている。民話「花咲爺」が教える焼畑農業、「緑の革命」と新植民地主義の関係、ヒラリー卿によるネパールでのナショナルパーク運動と現地住民、南方熊楠の「神社合祀に関する意見」、内モンゴル人の植林に対する考え方、英国紙による「アザラシを救えキャンペーン」、社会的に構築されていくリスク、グリーンピースが力をつけた理由の一端、長野県栄村の地域社会活動、ウマをひくサルが描かれた絵馬、擬似自然体験の場としての動物園、福武直らによる60年代の巨大複合コンビナート批判、日本の廃棄物行政にみられる焼却主義、私有林境界の未確定問題、ビルマ軍事政権と森林減少、バングラデシュで洪水が増えたわけ、海面上昇で沈むとされるツバルの実際……。ざっと拾い上げただけでも、興味深い論点がこんなにある。各章を分担執筆した研究者4人の呼吸がどこか揃っておらず、通読後、若干散漫な印象も残ったものの、4人が同じことを言っているのなら編著にする理由がないわけで、ともあれ、☆は四つとしたい。