太平洋戦争最大の目的、資源獲得のための戦いとその矛盾
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「このように日本は、国家総動員体制の鍵となる物的国力について、開戦2年以上先の目算が立たないまま、米英中ソなどの大国を敵とする戦争に踏み込んだ。重要物資の輸入を米英圏に依存していた日本が、総力戦の時代に航空機5倍、造船十数倍などの軍需生産力を持つアメリカを相手に戦うことに、もともと無理があったのである」。
太平洋戦争の最大の目的は、南方の資源確保である。その意味で、本書が扱っているテーマは太平洋戦争の核心だといえる。そして、「資源」を中心に国家総動員を前提とした総力戦を実施するために必要な基盤を見た場合、軍事大国としての側面とは対照的に当時の日本が国家として大変脆弱で大きな問題を抱えていたことを、本書を読んで改めて痛感する。
特に前半にある、名和統一教授が昭和12年に自らの危険を顧みず発表した、日本と中国(含む満州)とイギリス(その経済圏を含む)とアメリカの貿易メカニズムのレポートの説明は、当時の日本の国力を物資と資源という面から明快に物語っている。
もちろん、陸軍や海軍もそれをわかっていなかったわけではない。また、あまり知られていないが、石油獲得のために日本がオランダや中東と様々な交渉を行った経緯があったことについても記述されている。しかし、結局、うまくいかなかった。
本シリーズの特徴として、Visualな資料や様々なデータが満載されていることにも触れておきたい。特に、日本の商船隊の解説や兵員輸送の実態についての図解を交えた説明は、他ではあまり目にしないものだ。もちろろん、本書のテーマである、石油をはじめとした様々な資源に関する記述は豊富である。
一方、軍事作戦自体については、そんなに詳しいわけではない。しかし、オランダ軍や当時の蘭印総督府の実態については、ていねいに解説されている。巨視的な立場から太平洋戦争を理解するために不可欠な情報を多く含んでいるという点で、大変優れた一冊である。