心の哲学への軽い入門書
★★★★☆
心の哲学、具体的には心脳問題や人工知能、について軽くわかる入門書。
予備知識ゼロでもわかるように書かれており、心の哲学の一冊目には薦められる本である。
書き方も軽く、すぐに読みきれる量である。
ただし、逆に言うと、軽い本なので、ある程度心の哲学を知っている人が読んでも得るものは余りないだろう。
個々の思想家についても、もう少し突っ込んでほしいところで終わってしまっている感じが強い。
心の哲学の入門書として本書を見たときの特徴としては、動物との関係が多くあげられている点があるだろう。
ローレンツによる刷り込みの話や、ゴリラに言語を覚えさせる試み、ピンカーによる批判などが挙げられているのは、類書にはない点だといえる。
なお、入門書でありながらブックガイドがついていないのは手落ちであるように思われる。
なので、私が独断で選んだ本を何冊か紹介しておこう。
人工知能関連としては、論文集である『マインズ・アイ(上下)』がいい本である。
さまざまな立場の論者の重要な論文が網羅されている。
心の哲学のこうした論文集としては『The Nature of Consciousness』があるが、800ページもある洋書はさすがにきつい。
邦訳があるものだと、完全に私の趣味なのだが、一冊だけ挙げておくと、サール『心・脳・科学』は非常にわかりやすく書かれており、オススメである。
入門書としてお勧め
★★★★☆
意識や心の問題が、哲学の分野に限るものではなく、サイエンスの場にまじめに取り上げられるようになってから久しい。しかしながら意識問題への科学的なアプローチの仕方はまだまだ手探り状態で、哲学の分野でも理系に負けじと議論が沸騰している。
哲学というと堅苦しい感じがしてしまうが、本書はあくまでも大学学部生向けの講義を元に書かれた本ということもあり、解説が非常にていねいである。ていねいすぎて、多少勉強を進めている方には少々物足りないかもしれないが、それでもこの読みやすさを考えると、一読しても損はない。
また、少々語弊はあるが、「広く浅く」学べる本として、非常に良いのではないかと思う。題名には心・コンピュータ・脳とあるが、難しい考察を行うというよりは、デカルトに始まる二元論、チューリングマシンに見るアルゴリズムとクオリアの関係、行動主義と機能主義の論争・・・など、現在までの「意識・心」問題についての議論の変遷を追うことができる。そういった意味で入門書としてはお勧めである。
ただし、「広く浅く」という感じが抜けきらないこと、新しい本ではあるが、いわゆる古典的な議論をなぞって紹介しているだけで、他の関係本と特に目立った違いは無く、新しいことが書かれていないことが物足りない感じではある。ある程度この手の本を読まれた方の場合は、ちょっと退屈してしまうかもしれない。そういった意味で、今回は星4つとした。