独自視点で挑戦的な題材を扱った良い本では?
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地域社会の活性化に「イノベーション」という概念を持ち込んだ著者の理論は、一般的な経済活動(民間セクターという意)を行っている人には、大変わかりやすい議論であると思います。現在まで、マイケル・ポーター氏の「産業クラスター理論」が巷で議論されて久しい訳ですが、費用対効果という視点で考えた場合に、十分な実績を作り上げた地域は少ないのではないかと思います。著者は、現在まで「テクノポリス構想」や「融合化」等の取り組みを批判するのではなく、国内外の成功事例を分析し、新しい形を見出そうとしていると感じました。
実際に紹介されているのは、アメリカ国では、オープン型として、ワシントン州シアトル。クローズド型ではテキサス州オースティン。フィンランドのオウルやインド南部のバンガロールなどを分析しています。そして、最後に北海道の札幌市の事例を紹介することによって、今後の地域活性化の方策を考える上でのヒントを見出していると感じます。
では、それが何かというと、地域イノベーションを起こすためのポイントは「ブランディング」ということではないかということが、著者の提言であると考えます。
私見としては、ジェームス・C・コリンズの著書「ビジョナリ・カンパニー」の研究が、その著書が進むにつけ「ビジョナリー・ピープル」と変化してきたように、農業分野では徳島県上勝町の取り組みや、静岡県三ケ日町など代表されるような試み。そして、静岡県浜松地域の
戦後の成功や、最近ですと、福井県の伝統工芸「越前打刃物」の躍進など、実は、イノベーションを起こすのは、故ピーター・ドラッガー氏の著書「イノベーションと企業家精神」で論じているように、「人」というファクターが大きくなっていくのではないかと感じます。それらを仕組みとしてどのように構築していくのか。そして、どの様な仕掛けが必要なのか。
それらが、今後問われていくポイントだと思います。
話を戻しますと、地域振興の方策に新しい視点を持ち込んだ著者の今後の研究を注目するとともに、地域産業の活性化に携わる行政や研究者の方々。そして、地域性を意識したベンチャー起業家と、ソーシャルベンチャーといった社会起業家の方々に広く推薦したい一冊だと思います。