看板に偽りなし
★★★★☆
本書は近代日本において読書をする人々が「国民」としていかに拡大していったかというプロセスを、出版物というメディアのみならず鉄道や図書館といった読書をする場所の拡大とともに丁寧に描いている。おもしろいのは鉄道網の発展を流通だけでなく、本を読む場所としても注目している点である。公立の図書館よりも新聞社などによる遠隔地への書籍貸し出し制度、鉄道、さらにホテルや旅館の読書室といった商業的な読書空間が先行したというのも目から鱗。黙読といった「近代的」な読書習慣の浸透にも目配りが利いている。日本の近代や国民の形成について示唆の多い本である。