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本を読むデモクラシー―“読者大衆”の出現 (世界史の鏡 情報)

価格: ¥1,680
カテゴリ: 単行本
ブランド: 刀水書房
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普通人の読書のあり方、19世紀フランスの場合。 ★★★★★
文学を研究する際に、精緻に作品を読み解くだけでなく、もっと広く社会的な視野で、文学の生産や受容の顛末を問いたい。著者は、この視点で、19cの仏での読書活動を考察。自署された婚姻届や徴兵検査記録を集計した結果、1870年代には、識字率は70%以上になっていたそうです。字は読めるが、自分の思いを文字にはしなかった普通の名も無き人々。彼らは、どのような人達であり、どんな本を読み、読書で何を考えたのか。これが研究対象です。

当時、盛んになり始めた読書用のインフラ、500軒もあった「貸本屋」、「読書室」に注目。その残存目録から、貸本の内容。当時の小説の描写から、その営業形態・利用状況・利用者側の意識、などが明らかにされています。日本でも時代は、ずれますが、同様な貸本屋全盛の状況(日本では行商型)があったことも、丹念に調べられています。

また当時盛んになった新聞、そこに掲載された連載小説、それを多様な出版形態の本にしていった事情など、現代でも同一ソフトを異媒体で商品化するのと同じで、面白く読みました。またこの連載小説で多数の読者を獲得した作家が、旧制度での不利益に気付き、新たな報酬制度を考え、作品を販売して糧を得る近代的な作家の自覚が芽生えたそうです。活字文化の大衆化、その時代の断面を切り取って、様々な地層を明らかにしています。
インフラ論だけではありません。「ボヴァリー婦人」で、貸本屋が登場する数シーンを拾うことで、女主人公のエンマにとって、彼女が生きた心世界の中で、読書が持っていた意味を掬い取る鮮やかな分析があり、感心しました。

現代は、紙媒体から、液晶画面への移行が言われています。著者は、今のうちに前の世代の人達に聞き取りをして、紙媒体が主流だった前代の読書行動を文字化して残すことが大事だと、聞き取りを勧めています。
巻末の参考文献に、1行の紹介がついていて、役立ちます。