知られざる重慶爆撃を詳細にえがきだしている
★★★★☆
重慶爆撃は日中戦争の重要な部分であるにもかかわらず,あまりとりあげられることがない.書籍としては 「重慶爆撃とは何だったのか」のほうが手ごろだが,そこからはわからないさまざまな点がこの本によってあきらかにされる.この日本軍による執拗な無差別爆撃によって重慶やその市民がどういう被害をうけたかはもちろんのこと,ゲルニカにはじまり東京大空襲や広島・長崎につづいていく無差別爆撃のなかでの重慶爆撃の位置づけや,現在も尾をひいている中国人の対日感情,日米戦争への影響なども論じられている.
2 段組で 640 ページにわたってぎっしりと書かれた本ではあり資料価値はたかい.しかし,ひとつ不満があるのは,ほとんど個別的な情報が収集されているだけで,統計がわずかしか書かれていないことである.過去の一地域に関する統計をあつめるのは困難だろうが,もうすこし情報をあつめることはできなかったのだろうかとおもう.「重慶爆撃とは何だったのか」 にはいくつかの統計がふくまれているので,補足することができる.
重慶爆撃に関する一級の資料
★★★★☆
戦略爆撃と言えば、B29による東京大空襲などを思い浮かべる読者が多いと思います。また、本格的な戦略爆撃の始まりは、欧州戦線のベルリン/ロンドン空襲だと認識している人も多いでしょう。しかし、本書は、戦略爆撃の走りは日本軍による重慶爆撃だったことを一次史料から語ります。日本軍は3年にわたり首都爆撃を続け、中国の戦意喪失を図りました。爆撃する側、爆撃される側、双方の手記や命令書などから、重慶爆撃が何だったかをあぶり出します。重慶爆撃という今までそれほど明らかにされていなかった事件を知る上で欠かせない本です。なお、巻末には引用文献、人物解説、用語解説あり。 ところで、戦史好きな人のために補足しておくと、帝国海軍航空部隊の育ての親というべき井上成美、大西瀧二郎、山口多聞らが重慶爆撃で大きな役割を担ったことを知るでしょう。