情報を詰め込みすぎたのがいけなかった。釈尊(ブッダ)の悟りから空・唯識の思想までの歩みを圧縮して解説した手腕は抜群だが、しかし、ある程度は基礎知識がないと、消化不良に陥るであろう。部派仏教(小乗)と大乗仏教の違いを対比的にまとめた部分は、本人も認めているように誇張しすぎだが、とても参考になった。思想史の何たるかを、わきまえている。そういう優れた点を認めつつ、やはり、全体に重いのだ。
新書として出すのなら、著者の専門である大乗仏教を扱った章を中心にすればよかったのではないか、と思った。信仰や思想を整理し分析するのが上手く、しかも比喩の用い方に感心させられた。突然、ヴィトゲンシュタインの哲学との比較がなされる所など、すこし学芸の「芸」の方に熱心になりすぎたような叙述もあるが、全体に、とてもいい。比喩が巧みなのは、著者がふだんから大乗仏教を念頭においた生活をおくり、まわりの事物に大乗仏教的なものを見出してしまうからなのだろう。だから、やたらと抽象的な思想が、わりと具体的に説明できるのだ。信仰・思想は、生き方なり。