グールド最後の録音
★★★★★
作品3の3つのピアノのための小品が1979年。作品5のピアノ・ソナタ・ロ短調が1982年7月2日、9月1-3日、ニューヨーク、RCAスタジオでグールド最後の録音である。
グールドは、R.シュトラウスを高く評価していてこういう言葉を残している。『リヒャルト・シュトラウスの音楽で偉大なことは、それが芸術のすべて・・様式、趣味、語法のすべての問題・・、薄っぺらで時代に遅れた年代学者のすべての偏見、そうしたものを超越する一つの証しを提供し具体化してみせることである。それは自分自身が生きる時代の一部にとり込まれないことによって自分自身の時代をより豊かにし、どの世代にも属さないことによってあらゆる世代の代弁をする人間の事例をわれわれに示している。それは個性の最高の証明であり、人間は時代が押しつける一律性に縛られることなく、自分自身の時代統合法を創造できることの証明である。』
まさにグールドの生き方そのものを示しているような気がする。特に作品5のピアノ・ソナタは名演でベートーヴェンの『運命』の主題のような入り方で始まり、メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』を感じさせるフレーズもあり、なんとなくR.シュトラウスの一生を一曲で再現してしまっているような錯覚に陥った。
燦めく明確なフレーズ。グールドのピアノは最後まで燦めいていた。