ドイツ人とは何者か?
★★★★☆
ドレスデンといえば、第二次大戦末期に連合軍の空爆により、完膚なきまで破壊しつくされたドイツの都市という以上の知識はなかった。
ドレスデンはかつてのザクセン王国の首都。17,18世紀に強烈な個性の持ち主であるアウグスト強王のもと「エルベの畔のフィレンチェ」といわれるバロック建築の都市の体裁が整えられた。その陰には戦争があり、そしてアウグスト強王の寵妃、コーゼル公爵夫人の悲しい運命についても語られる。アウグスト強王を継いだアウグスト二世のもとで絵画や彫刻、そしてヴェーバー、ヴァーグナーなどと縁のある香り高い芸術都市となっていく。
著者はドレスデンの空爆について詳細に語るが、連合軍の空爆の意図などについては触れない。ただ、「気の遠くなるような瓦礫の大海原に立ったとき、ドイツ人がこれを元のように建ててやろうと考えたであろうと思ったとき、初めてドイツ人が怖くなり、ドイツ人とはいったい何者であろう?」という感情をもったと記すのみである。
瓦礫となった聖母教会、そしてその周りで羊が草を食んでいる写真がある。これを再建しようと考えるのは確かに尋常ではない。
著者はドイツ在住の文筆家、本書はエッセイであるが、最近は日独社会についての現地在住ならではの鋭い視点からの評論を雑誌に掲載されている。この面でも今後の活躍を期待している。
本書は随所に散りばめられた写真が美しく、装丁もきれいで手にするだけでも楽しい。
ドレスデンの文化と歴史の香りを伝える書
★★★☆☆
私にとっては待望の川口マーン惠美最新作。旧東独地域に位置する都市ドレスデンの文化と歴史を逍遥する一冊です。
ドレスデンは1945年2月13日三度に渡る連合軍の空爆によって焦土と化します。著者はこの街で、幼少時に激しい空爆を経験した双子の姉妹の知遇をえます。本書はまずこの二人へのインタビューを通じて痛ましい戦争の爪跡をたどっていきます。焼夷弾によって発生する激しい火焔の嵐の描写には胸えぐられる思いを味わいました。
ドレスデンはそもそもアウグスト強王によって豪華絢爛なバロック文化が花開いた街です。著者は一旦現代史を離れ、女性にはからっきしだらしなく、ポーランド王の地位まで追い求めた18世紀のこの王の生涯に絡めてドレスデンの近代史を描いていきます。この人間臭いこと甚だしい強王の生き様は本書の見所のひとつです。
そして19世紀のドレスデンでヴェーバー、ワーグナー、シューマンといったきら星のごとき大作曲家たちが活躍する姿を綴ったあと、本書は再び現代史へと立ち返ります。ドレスデン市民は空爆によって木っ端微塵に吹き飛ばされた聖母教会を復元するべく奔走を始めます。20世紀末から21世紀初頭にかけ、豪奢極まりない建造物の復活に奔走する人々の思惑やかけひきが興味深く読ませます。
ただし、ドレスデン空爆をもとに米兵「クルト・フォンネグート」が「屠殺バラック5番」を書いたとありますが(126頁)、これは「カート・ヴォネガット」「スローターハウス5」のことでしょう。この辺りの誤りはご愛嬌。
なお、あとがきにドレスデン工科大の言語学者クレンペラーについて「いつか必ず書きたい」とあります。私もVictor Klemperer著「第三帝国の言語」(法政大学出版局)を学生時代に読んで大きな衝撃を受けた覚えがあります。この川口マーン惠美によるクレンペラー伝を今から大いに楽しみにしています。
ドレスデン市民はすごい
★★★★★
この本にははドレスデンの空襲の様子からオリジナルの建造物の歴史、
そして建造物の再建に至るまでの経緯をわかりやすい文章で綴られています。
ドレスデン市民とドレスデンの歴史遺産に対する著者の畏敬の念と愛情が
よく伝わってきました。
本書の中で紹介されていた、瓦礫の山と化した聖母教会の前に牧草地が広がり
羊が牧草を食んでいる写真は衝撃的でした。
ドイツに興味のある方にもそうでない方にも是非読んでいただきたい一冊です。