マットスカダーシリーズは、先に「墓場からの切符」を読み、これを後に読んでしまったせいで、この本自体への感想はシリーズの導入編程度のものしか持てなかった。ただ、人を裁き、人の生命を決めるのが神の役割だというキリスト教的な考え方を理解する意味ではこの本を読む意義はあると思う。このテーマがスカダーシリーズの根本をなすと思うからだ。
この作品でも、主人公の独特の死生観と正義への絶対的な忠誠がその台詞の端々から伝わってきて楽しめるが、肉が足りない展開という欠点は否めない。スカダーの真価は「八百万の死に様」以降に発揮され、それまではやはりB級ハードボイルドの域を出ないようだ。