NYの皮肉な日常会話
★★★★☆
酒を断ったスカダーは、アル中自主治療教会(AA)の集会へ通っていた。ある日、女優になる事を夢見てニューヨークへ来た娘の行方を捜してほしいと依頼を受けた。アパートの部屋を突然に引き払ったポーラ・ホートルキの行方は、スカダーの丹念な聞き込みにも関わらず一向に判らなかった。そんなある日、AAの友人でエディ・ダンフィという男が自宅で自殺するという事件が起きた。発見者はスカダー。エディは死ぬ二、三日前にスカダーに打ち明けたい事があると言っていた事もあって、気になったスカダーはエディの周辺もなんとなく聞きまわり始める。エディの住んでいたアパートの管理人ウェラ・ロシターと恋人関係になるスカダー。ふたつの事件を独自で調査していくスカダーは、やがて思わぬ方向から事件のからくりを見破るようになる。
禁酒を始めて間もない頃のスカダー物。しかし禁酒という意味での酒についての描写がかなり出てくる。ニューヨークに住む人々の孤独をアイロニーで包んで描いている。まるでそれはニューヨークという街の空気を一瞬でも感じられるかの程にリアルだ。そう言った意味でマッド・スカダー物は都会小説だ。そのニューヨークの人たちとスカダーとの皮肉な会話が面白い。様々な人々からの皮肉な日常会話を繰り返すスカダーの姿を読みながら、もしかしたら作者ローレンス・ブロックはニューヨーク生活の生態を描く事に終始しているのではと一瞬ちょっと懐疑的になったが、そんな心配はラストで一気に吹き飛んだ。そのいろんな日常会話に様々な伏線が張り巡らされてあったとは!