不平等や貧困などといった言葉から、センのことを単純に道徳的な人という誤った理解が日本では横行しているが、センがほんとうに言おうとしたことを理解するなら、この著作を読むのが一番である。そのあとで、1980年代以降に出た論文集や著作を読めばよい。センほど、徹底的に論理的な人はいない。その特徴がこの著作にはっきりと現れている。生意気なようだが、この著作を読まなければセンのことを永久に理解できないだろう。それほどまでに、前期センの功績と業績を凝縮した著作である。
理解しにくいとか、わかりづらい、といったことは、この著作の価値とは無関係である。そのように感じた人は、この著作の価値がわからないだろう。この本は、私にとってバイブルに等しいくらいの深くて重い内容を持った本である。私はこの本を理解したくて、論理学の勉強をはじめにやった。そのあとではじめて、本書の内容が多少は見えてきた。
そういう努力なしで本書の評価をすることは、まったく無意味である。