著者の人柄 良い面でも悪い面でも
★★★★★
著者の人柄があらわれている本、と言えます。
良い面でも、悪い面でも。
文学や映画の引用、文学者とのやりとりなど、幅広い見識を示しておられますが、
途上国援助に関する無知と、作家独特の偽悪的文章に対する誤読はあまりにもお粗末です。
車が使えるような舗装された道が無く、聖職者や警官すら犯罪者に
早代わりする可能性もある途上国では、大統領専用機で援助地域の視察に
向かうことは決して「豪華な旅行」などではないのですよ。
一般的な日本人が国内を観光旅行することのほうが、よほど豪華で安全なのです。
偽悪的ユーモアを文字どおりに受け取ってしまうあたり、まじめな方なのでしょう。
しかしそのまじめさは、例えるなら口の悪い男が「うちのバカ息子がよぉ」と
愛情込めて口にしたのを、「自分の息子をバカとはなにごとですか!」と怒り、
批判してしまう、そういう類のまじめさであると思います。
貧しい民衆を蔑視するような人間が、何十年も自腹を切って現地に赴き、NPOを運営するでしょうか?
そのNPO活動の内容を記した本には、世界の貧困への悲しみと優しさが溢れていますのに。
「助けたのは、豪華な旅行をさせてもらったからだ」
なぜ、こんな卑しいものの見方に、嬉々として飛びついてしまったのでしょう。
まだ真相の明らかにならない事件について、マスコミの報道だけで結論を下してしまったのですか。
短大で教鞭をとり、児童文学者として評価される著者の読解力、思考はこの程度だったのでしょうか。
清水先生はゲド戦記の訳者として、ほとんど作者と同一視され、熱烈なファンが多いですね。
講演会に参加すると、そうしたファンの方々が実に素直に、「清水先生の言うことに間違いは無い」と
言わんばかりの様子でお話に聞き入っておられます。
人間は一面的な存在ではありません。すぐれた翻訳者としての清水先生は、もちろん真実なのでしょう。
しかし、どのような人物であっても、目が曇ることがあるのだとこの著書は示しているように思います。
日常の幸福に気づく力
★★★★☆
『ゲド戦記』の翻訳者である著者の講演録。
児童文学翻訳者であり、
児童文学評論家の著者の、
それぞれにまつわる考え方などが、書かれています。
大学の先生でもある著者が、
学生たちとの生活の中で体験し、考えたことも書かれていて、
著者の人柄がうかがえる。
基本的には、
児童文学論と、
翻訳論と、
それぞれ講演の内容でテーマが違っているが、
流れている思想は一貫していて、
“常識”や“メジャー志向”に流されない、
厳しさと優しさを持っている。
興味としておもしろかったのは翻訳論について。
特に、
時間をおいて出版された『ゲド戦記』の4巻・5巻については、
おもしろかった。
日本語にない言葉、考え方を訳すことの難しさ。
なるほど、そこには、
その本が書かれていた国の社会状況が、
どうしても見えてくる。
そこに悩みながら、迷いながら翻訳される言葉は、
簡単ではない、
苦労して紡ぎだされる言葉だな、と思った。
ステキな著者の人柄を知るだけでも、
おもしろい一冊です。
なるほどなるほど
★★★★★
この本は作者の過去10年にわたる公演録をおさめたものになっています。
一部話が重複している部分があり、あれ?と思うこともありましたものの、なかなか面白い内容になっていたと思います。
例えば、ゲド戦記の作者のル・グウィンとのやりとりのエピソードがあったり、また、彼女自身が翻訳をしていく中で感じた事、考えた事がのっています。
この本を読み始める前は、一体翻訳家の人とはどのようなことを考えているのだろうか、と思っていましたが、読んでみると、さまざまな本について、歴史や思想について、幅広い知識や見識をもっていて、読んでいてとても興味深かったです。