憧れを大切に、幸福を求める(児童)文学
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本書は翻訳を中心に、13編の童話(児童文学)が集められている。
ここでは、ルーマー・ゴッデン作・石井桃子訳「ねずみ女房」が表題に取り込まれているので、この作品を中心に著者の意図をまとめてみたい。
おすねずみはめすねずみが子育てをして住まいの中でとじこもっていることを命じる。そのような生活に満たされないめすねずみは、かごの中のはとに心ひかれて抱かれしまう。それを知ったおすねずみに暴力をふるわれる。めすねずみはかごを開けてはとを外へ飛ばしてやった後、涙がでてくる。
ねずみにはめったにできない「星が見えたのです」すなわち〈はるかなるものへの憧れ〉がこのめすねずみにはあったのだという主題を著者は強調している。〈憧れを抱き続ける力〉ということが人生に於いて大切なことを解説でも再確認している。
この著者の根本精神は「子供の文学に幸福を発見する」ことに喜びを感じることである。辛い結末になる物語は読む気がしなくなるという、向日的で、愛を大切にする児童文学者だと思う。しなやかな教育で学生に慕われているというのも「むべなるかな」である。