世界のどこかには、きっとこんな女房ねずみがいるはず、と信じたくなる。
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ウィルキンソンさんの家に住む「女房ねずみ」は、とても働き者。ある日、鳥かごに入れられた「はと」と家の中で出会い、外の世界があることを知ります。夜中におしゃべりしているうちに、実は孤独な女房ねずみにとって、はとはとても大切な友達になるのですが、見るたびに弱っていくばかり。そんなある夜、女房ねずみはたまたま窓が開いていることに気づいて…… 。
衰弱しきったはとが、久しぶりに会いにきた女房ねずみ(女房ねずみは、子ねずみだけでなく、ダンナさんの「世話」でも忙しい)を、翼で優しく抱きしめる場面には、何度読んでも涙があふれてきます。
そして、ちっとも働かず、おれとあそぶべきだ、といばっているダンナさんねずみが、女房ねずみにかみつく場面では、本当に腹が立ちます。ルーマー・ゴッデンは「おす」に対してかなり厳しいお話をいくつも書いていますが、それは、ゴッデンさんの最初の夫が、借金を押し付けて夜逃げしたことに関係しているのではないかと思います。
はとを逃がしてあげた夜、「飛ぶ」ことの素晴らしさ、夜空に輝く星の美しさを初めて知った女房ねずみは、外には別の世界があることを発見します。このシーンには、読み返すたび胸を打たれずにいられません。
これは1951年、ゴッデンが44歳の時に発表した作品で、邦訳は1977年。もしも石井桃子さんがmousewifeを「ねずみ女房」と訳していなかったら、これほどのロングセラーにはならなかったでしょう。2008年に101歳で天寿をまっとうされた石井桃子さんに、お礼を言いたいぐらい。また、自身も児童文学作家だったデュボアの絵も、切ない風趣にあふれていて、小さなねずみの大きな体験を描くのにぴったりだと、つくづく感じます。
新しい世界を見たねずみ
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ねずみには流行も変化もないので今も昔も変わりません。 隠れ住んでいる人間の家だけが彼女達の世界で、 どのねずみも同じように生まれて、親になったら夫や子供の為に餌を探し回るのです。 誰もそんな生活に疑問を持たなかったし、不満に思うねずみはいませんでした。 そんな世界に住む一匹の女房ねずみ。このねずみは、他のねずみと比べて足りないものは何もありませんでしたが、どこか違いました。 彼女は家の中で籠に入れられた1羽の鳩と出会うことで、今までねずみは誰も知らなかった外の世界を知るのです。 小さなスケールの世界なのに大切なことをたくさん教えてくれる本です きっと鳩との出会いや触れ合いもネズミにとって新しい感覚だったと思います。 素敵な本ですのでたくさんの方に読んで欲しいと思います。
単なる、ネズミとハトの友情物語ではない
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さっと読めば、ネズミとハトの友情物語に思えるが、それだけではない。
この物語の主旨は他にあると思う。
平凡な日常に退屈し、遠く見知らぬ世界にあこがれるネズミが、
自分の生活の安定を捨ててまで囚われの身になったハトを鳥かごから逃がしてやったとき、
真理は日常のすぐそばにあったことを悟る・・・。
ネズミの見た星は、「真理」もしくは「神」と解釈してよいかと思う。
「人形の家」もそうだが、ゴッデンの作品は単純に見えて実は深い。
読んで私はドキリとしました。かなりの傑作と思う。
日常に退屈している大人にオススメ。
生意気なネズミ
★★★★☆
Rumer Goddenの『The Mousewife』(1951年)の翻訳。W.P.デュボワが絵を付けているが、絵本というよりは挿絵の多い児童文学。お話は短い。
ゴッデンは『人形の家』で著名な児童文学作家。イギリス人だが、インドで育ち、暮らしているためか、あまりイギリスの児童文学という感じはしない。むしろ、もっと無国籍的な印象を受ける。お話そのものも寓話的で、どこで読んでも違和感がない。ちょっとおかしな表現になるが、現実感のある寓話といったところか。
本書は、ちょっと変わったネズミの話。「ねずみ女房」というと、ネズミが婿探しをする話を思い出すが、これはそうではない。ドロシー・ワーズワスの日記にある事件から思いついたという、ネズミとハトの友情の物語。
結末の優しさが良い。
正統派の美しい童話
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捕らえられたハトを、その家に住むメスネズミが助け出すまでの、ハトとネズミの友情のお話です。
メスネズミには少しナマケモノの夫がいて、やがて子供も産まれ、平凡な主婦をしています。でも、何かが足りない・・何かが満たされない・・(この辺は、専業主婦の私は共感!)。そんな時、ハトと出会って・・・。
絵の方は白黒で、リアルな感じです。ネズミの表情や仕草が可愛らしく描かれていて、見てると微笑んでしまいます。
教科書に載っても良いくらい、良いお話だと思います。
一つ気になったのは、すっかり弱った体で飛び去ったハトは、元気になったのかしら?という事です。