流麗な文章は健在
★★★★☆
現在の日本文学界の最高峰の一人である池澤氏が、少年向きに描いたものだ。JR内でキップをなくした少年少女たちのひと夏の経験が、書かれている。とくにミステリーを気取っているわけではないし、ファンタジーなので話はわりと単純。でも、いつもながらの、平易なのに流れるように美しい文章にはほっとさせられる。但し、少年少女ものを得意としている、たとえば瀬尾まいこさんとか、昔の森絵都さんのような、少年少女の「あっ、そこはイタイ!」という、きらめきや秘密めいた箇所は少ないような……。まあ、仕方ないか。
解説は読後に読むべし
★★★★☆
最初は「設定に無理があるなぁ」と思いながらも、その世界にどんどんと入り込みました。そしてだんだんと子供たちの個性に引き込まれていきます。
「コロッコ」という生命についての著者の思いが語られます。この思いは、生きることと死ぬことについて、大人だけでなく子供にも受け入れやすい考え方のような気がします。また著者の他の作品にも繋がっているようにも思いました。
不思議な世界ですが、読後感がさわやかな本でした。
文庫本を読む時に解説から読まれる方が多いと聞いていますが、本書に限っては読了後に読まれることをお勧めします。小説を読んでいる時に感じた疑問符が見事に氷解するからです。
久々に、みんなに勧めたい一冊でした。
★★★★★
池澤夏樹の作品をきちんと読むぞ個人的キャンペーンの第?弾。
駅と鉄道を舞台とした子供たちのファンタジーです。
特に鉄道や駅がすきってわけではないのですが、最初の数ページで一気に物語に引き込まれました。ここまでわくわくしながら先を読み進めたのは久しぶりだと思います。
駅の子(詳しくは読んでください)になった子供たちの生と死を巡る冒険。
子供たちが、そこにある「死」を受け入れる葛藤の描写は、電車の中でいい歳をした40男を泣かせるに十分なものがありました。
(村上春樹「羊を巡る冒険」の最後、僕と鼠が別荘の暗がりの中で再会した瞬間に僕が発した言葉の衝撃に近かった)
子供たちがぐんぐんとたくましくなっていく様子も、本当に嬉しくなってしまい、電車の中でニヤニヤ。
物語の設定からしても、電車の中で読むのがいいのかも知れません。
こんなによい作品、久々に読みました。
ふりがなさえふってあれば
★★★★☆
こども向けの本に見えるのだけれど、1976年生まれの小学生という時代設定など考えるとちょうどそのくらいの年齢の大人向けなのかな。「花を運ぶ・・・」以来社会派方向に進みすぎて、小説が面白くなかったんだけど、久しぶりに昔の彼らしいストレートなおはなしが楽しめました。
切符をなくしたら・・・
★★★★☆
切符をなくしたら駅から出られなくなる。それが子供ならではの純粋な気持ちなのかもしれない。
本書では切符をなくした子供たちが、ステーションキッズとして電車の中で活躍する。朝夕のラッシュ時に子供たちを守る役目を負っているのだ。時間をとめることができたり、ちょっと不思議は力も身につけている。
駅の子供たちを温かく見守るのは駅長。どこの駅長でもない特別な駅長の登場など、その魅力的なキャラクターにも注目。