男女の心の綾を描く9編
★★★★★
収録作品は以下の通りです。
「ゆだん大敵」(昭和20年)
「契りきぬ」(昭和24年)
「はたし状」(昭和26年)
「貧窮問答」(昭和28年)
「初夜」(昭和29年)
「四日のあやめ」(昭和29年)
「古今集巻之五」(昭和33年)
「燕」(昭和35年)
「榎物語」(昭和36年)
本書は武家社会を中心に夫婦、恋人同士の心の綾を扱った作品を集めている。「契りきぬ」は味わい深い作品。ヒロインおなつのひたむきさと潔さが印象的。そこまでしなくてもと思ってしまう。「初夜」は、周五郎典型的なさわやかな作品。巧すぎるきらいがないではないが。「四日のあやめ」も力作。武士には御法度の私闘を妻が取り次がなかったために夫が受ける精神的な苦痛、そして、夫婦の情愛が描かれる。力作。「古今集巻之五」も面白い。妻に自害された夫とその謎解き。タイトルになった古今集の歌は作品中には引用されません。が、古今集を持っていれば容易にわかります。探してみるのも一興でしょう。「榎物語」も力作。将来の再会を誓い合った不運な恋人同士。周五郎によくある一件落着にならないところがこの作品の価値を高めていると思う。