周五郎は(あの顔で)すっごい恋愛小説家だと思う。
★★★★★
断じて、そーなのである。この短編集は、周五郎道の探求者にとって「愛情もの」と呼ばれるジャンルを主に集めたもの。当然、ぐぐぐぐ、おおおおお!と、なるわけである。特に「つばくろ」から「扇野」「三十振り袖」「滝口」の四廉ちゃんはスゴイ!最近乱読しているので並大抵では動じなくなってしまったワタクシだが、これには電車中といわず、昼飯のラーメン屋といわず、即頭がグワングワンして困ってしまった。さて、愛情ものといってもいわゆる恋愛小説といえるのは扇野以降の3本。つばくろまでは夫婦間の思いやりや優しさを描いた(こういうとすごくつまらなく聞こえるが)いわゆる愛情もの。なかでも「つばくろ」のような話はあり得ないと思うのだが、ここではツバメの巣と3歳児大助の存在が光る。恋愛もの3本ではなんと言っても「扇野」いちいち場面が美しいのだ。海での別れのシーンがいい。こんなかっこいいことを言う女が時代小説にいるだろうか?さらにこの一編が深いのはおけいの存在だ。周五郎の作品中でも一二位を争う美しい小説だ。三十振り袖は落語調の人情もの。「滝口」これも深い。おりうのようなファムファタールを江戸時代を背景に描くとは!とてもモダンかつ知的な恋愛小説。すばらしですね。