スペイン風邪の経験を生かそう
★★★★★
みすず書房は最近の新インフルエンザ騒ぎで、資料追加の改訂版を出版したが、90年以前の実態を知り今後に役立てるべき良書である。
たとえば、国立感染症研究所の研究官が「パンデミック・シミュレーション」なる書籍を刊行して巷間の関心を呼んでいるらしいが、これなどは連立方程式の係数を適当にいじって、気楽に将来予測をしているだけの印象を受ける。
データ解析能力の向上した現在それを活用して、本書で紹介されているサンフランシスコの「マスク着用条例」のデータ解析をしてもらいたいと思う。
本書のサンフランシスコの項では、マスクの感染防止効果について議論があり、「マスク着用」条例をいったん止めたり、感染者再増加で条例再実施など紆余曲折があった由。全体の感染状態をみればマスク効果は相当にあったと言えそうである。
国立研究所の研究者も気楽な未来予測だけでなく、当時の地元紙や市の記録を解析しマスク効果の有無に的確な判定をすべきであろう。今日、MostWantedのテーマである。
上記の研究官はいまだにマスクの感染予防、早期治癒効果を信じていないようであるが(p174)、感染症研究官も安価なマスクでは医薬品業界が潤わないとでも思っているのだろうか。
国立研究所の研究官がキワモノ出版で小遣い稼ぎに精を出すのは仕方がないが、この際に「史上最悪・・・」を参照にして少しは世の中に役に立つ仕事をして貰いたいと願う。
本書は感染症研究者が本気でパンデミック対策を考えるうえで活用すべき書籍である。