ディールズアルダーを使いこなす
★★★★☆
炭素炭素結合形成に対して、クロスカップリングなど、最近の有機金属試薬を駆使した反応を提案する人が多い中、本書で解説されているようなペリサイクリックな反応を逆合成の中に組み込む事を提案できる人は意外に少ない。立体を制御しつつ一挙に複数の結合を構築する事ができる点で使いこなせば非常に有用な手段であるにも関わらず、立体選択性に対する理解が不十分であったり、転位を伴う事から、敬遠されがちなのが現状なのでしょうか?有機化学の教科書では、要点だけがまとめてられているケースが多いですが、本書は、この手の反応にスポットライトを当てて、丁寧に説明してくれています。オックスフォード大学のOCPシリーズは、各論を丁寧に解説してくれている点で優れていますが、特にこの手の本は和書ではほとんど見当たりません。ウッドワードホフマン則と分子軌道論を詳細に解説するところから始まり、電子環状反応、ディールズアルダー、キレトロピー、双極子反応、クライゼンやコープ転位などのシグマトロピー反応まで、分かりやすく解説してくれています。日本人が見落としがちなところにも、しっかり教育のメスを入れるところはさすがとしか言い様がありません。お勧めです。