珠玉のエッセイ
★★★★☆
野呂邦暢は3冊のエッセイ集を出版している。このうち「小さな町にて」が最高傑作で、特に諫早・京都・東京で過ごした青春時代のエッセイがすばらしい。編者の好みなのだろうが、「夕暮れの緑の光」にはそれほど収録されていないのが残念だ。本書を読んで感銘を受けた人は、古書価格はあまりにも高いが「小さな町にて」もぜひ読んでほしい。もちろん、本書も野呂邦暢の小説世界を理解するうえで有益な選択をしており、編者に敬意を表したい。しかし、3冊のエッセイ集に含まれていないすばらしいエッセイもあるのに、それらが含まれていないのは残念だった。
読み終わるのが惜しい!
★★★★★
限りなく透明な文章。ゆったりとたゆたう時間。野呂邦暢の文に接する時に、特に随筆を読む時いつもこのような想いに誘われる。でも多分、彼の描く諫早の町の風景はどこにもない町、野呂の心の中だけにある異空間だ。私たちはただ虚心に入っていくだけだ。我が身をゆだねて……。
静かに熱い心地いい文章
★★★★★
野呂邦暢という作家の名前は知らなかったのだが、たまたま「小さな町にて」の
書評を読むことがあり、よかったのでこの本を手に取った。
この本は「王国そして地図」「古い革張椅子」「小さな町にて」の三冊の随筆集と
単行本未収録の随筆から、編者の好みで主に古本に関するものを中心に編まれた
随筆集だ。
著者の随筆は速く読み飛ばして読むものではない。じっくりと選りすぐりながら
言葉を紡ぎ出す息づかいのようなものが感じられる文章なので、その速さで
じっくりと読んでいくのが自然でいい。
本、音楽、友、絵・・・静かに書かれているが、好きなものに対する熱い気持ちが
底の方に感じられる。この温度感もとても気持ちがいい。筆写したくなった。
小説もぜひ読んでみたいと思う。それにしても、入手困難な本ばかりのようで
とても残念。今年はこの本の他一冊復刊されたそうだけれど、他の本も復刊
して欲しい。