自傷の裏側
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自傷行為は色々と誤解の招く臨床症状であると思う。というのも、「人の気を
引いているだけ」や「絶対に死ぬ気はない」と理解されてしまうことが結構多い
ように思われる。しかし、実際にはそんなことはなく、自傷行為やその傷跡を絶
対に人に見られないように、知られないようにしている人は多いし、自殺既遂に
至る例もかなりある。
さらに、自傷行為を「止める」と言っても、強引に腕力を持って止めたとして
も何もならない。かといって、ただ共感的に聞いているだけでも何もならない。
また、自傷行為をする人の周辺の人はさまざまな複雑な思いに囚われてしまうこ
ともある。怒りをもって接してしまったり、極端に無関心になってしまったり。
巻き込まれてしまい、冷静に判断・対応することができないというのも自傷行為
の一つの特徴かもしれない。
同じ自傷行為であったとしてもそこに込められた意味や機能やメカニズムは各
人それぞれであり、画一的な理解や対応をすることはできないということは当た
り前と言えば当たり前である。しかし、一つ言える事は、表面上に現れた自傷行
為だけを見るのではなく、その背後に隠された悲しみや切なさ、辛さ、大変さと
いった表現しきれない情緒に思いを馳せて行く態度が治療者としては求められる
のかもしれない。
自傷における専門書の最高峰。
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本書は自傷行為を知る上で非常に有意な専門書であり、
実践的な治療を行う上で専門家にとっても非常に有益なバイブルのひとつとなり得る名著である。
本書を活用する際に必要な学習・認知心理学等の専門用語に関しても実践レベルに対応するよう、
比較的平易な表現が用いられ、かつ効果的に理解できるよう配慮がなされている。
また自傷の行為にだけスポットを当てるのにとどまらず、原因となる精神病や神経症などの臨床例をも詳細に解説しつつ自傷との関連性等を紐解き、
ひいては自殺についても自傷の対極として捉え、慎重な議論がなされている。
また、和訳も非常に出来が素晴らしく、理路整然として海外文学のような難解さは微塵も感じられない。
この点も幅広い層に受け入れられやすいため評価に値すると思う。
しかし、日本国内での症例は一切ないという点では社会学的な面から見ても幾分かは期待に答えられない点があるのは少々残念ではある。
そして、一般の方が読むにしてはある程度の予備知識が必要なのは言うまでもない。
だが、これらの点を総合的に加味しても、自傷行為について総合的、包括的に検討が行われ、実際の治療の現場に役立つものは本書以外には見当たらない。
したがって、真に自傷行為を探求する方、治療方針を切望する方などには必携の一冊と言っても過言ではない。
自傷に関して理解を深めたい方にはお勧めである。