鈴木博之先生の作品
★★★★★
著者の鈴木博之先生は建築史界の大御所であり、DOCOMOMOなど、近代建築の保存に深くかかわっている。
本書の構成は、
1、建築の保存について
2、文化財と現代
3、建築保存の現場
4、近代化の背景
となっている。
保存することを、「歴史的遺産を現代社会と結び付け、過去の遺産をわれわれに理解させてくれるのに役だつ」と表現し、陸自市ヶ谷駐屯地や明治生命館、三井本館などを例にとり、計画、竣工、などの歴史を振り返りつつ保存に向けての取り組みを説明している。
建築の本を読んでいるのと同時に、歴史の本を読んでいる感覚に包まれる。
また、同時に雑学的なことも随所に含まれており、読んでいても全く苦にならない書籍である。
建築史が専門でない方にも、ぜひ一読の価値ありだと思います。
書評 松山巌(作家・評論家)
★★★★★
以前この著者は、観光旅行
とは各々の土地に残る建築を
見ることだと喝破した。まさ
にその通りで、建築こそ土地
の歴史、文化、技術を背負って生まれ、土地に生きるからだ。大切な資源なのだ。ところが日本では、殊に明治以後の名建築を次々と取り壊し、いまは戦後の代表的建築も消し去ろうとする。建築界にも空間プロデューサーなる怪し気な職業も登場し、効率的でないという児戯めいた理屈をもって、時流に樟さす。著者は心底、この状況に呆れ、怒っている。とはいえ、この建築史家は歯軋りしているばかりでない。保存の実践に長らくかかわり、そこからなぜ古建築を残すべきなのか、現状の制度は、免震化などの保存技術は、再利用の途は、外囡例はと、じつに幅広く具体的に保存の手法と意義を明証する。東京芸大の奏楽堂、都知事公邸の敷地などを例にして、文化遺産がその土地に残ることで、歴史も記憶も都市も再生するという論は説得力に富む。松山巌(作家・評論家)