分量は十分すぎるが、やや写真の質が気になる図鑑
★★★★☆
『磯あそびハイパーガイドブック』の荒俣宏氏が素潜りで撮影した写真を収載し、解説を加えた磯魚図鑑。『ワンダー』の意味は著者の『なんだこれは』の気持ちが込められたもの。400ページ近い分量に(たぶん)2000枚ほどの写真が掲載されていて、シュノーケリングや比較的浅いダイビングで見られる種類はほとんど紹介されているのではないかというほどの厚さ。
プロの水中写真家ではない著者の作品でありながら、図鑑としての体裁は十分に整っていると思う。とにかく写真が多いことと、解説文が適切と思う。『磯あそびハイパーガイドブック』に内在する図鑑は数も少なく、対象の大きさなども未記載であったために物足りない内容だったが、本書ではそれが十分に補われている。
敢えて難点を述べるならば、写真のレベルはプロの水中写真家ほどではない。ところどころに露出があっていなかったり、色彩がわかりづらかったり、対象の向きが悪かったりする写真がある。読者最優先で本書が作られたのであるならば、読者が磯で魚を見たときに、本書によって種類が確実に特定できなければ意味がない。擬態の特異なピグミーシーホースなどはどこに映っているかさえわからなかったり、同様に背景にとけ込んでいる魚についてはその特徴がわかりづらい。
幼魚などの写真も多いので見ていて楽しくなる書で、他の書と比較しても分量は十分すぎるが、プロの作品と比較すると写真が洗練されていない点がどうしても気になる。買って損したとは全く感じないが、星5つの評価にするには一歩足りない印象の本。
日本の誇り
★★★★★
P.12の哺乳類の写真を見て、大笑いしながら荒俣氏への畏敬の念が沸きあがってくるのを感じました。→390ページ{撮影者名}が抜けていたのはかえすがえすも残念です。次版時にはぜひいれてもらいたいものです。日本にはアラマタがいる、と祈るような気持ちで思うことがあります。本書を手に取り改めて、日本人として誇れる人だ、との思いを強く持ちました。リンバーバーの「博物学の黄金時代」(1995)と「磯採集ガイドブック」(2004)、そして本書。この3冊が手元にある幸せ。
解説が素晴らしい!
★★★★★
この手の書籍にありがちな、類書の孫引きに終始する解説とは一線を画する文章が、なによりも本書の白眉かと思います。写真も素晴らしく綺麗な、オリジナリティの光る、個性的な図鑑で……いや図鑑というよりもむしろ、読み物としてとてもおもしろい本です。魚料理にかんする記述がとても多いし、その魚の分類史や発見史にも言及されていて、「おもしろくてタメになる」本といえるのではないでしょうか。また、実際に荒俣氏がここ数年潜って撮影しているようで、撮影時のその場の状況などがとても詳しく書かれており、そのまますぐに海に行っても同じ魚に出会えそうだと思わせてくれます。実用的であると同時に、磯魚には門外漢のわたしの、博物学的興味を満たしてくれる一冊でもありました。さすが博覧強記の荒俣氏だと感じ入りました。