豊臣政権下に生きた二人を見事に描く
★★★★★
本能寺の変で偉大なる父,織田信長を失った信雄.小田原の役で関東北条氏の滅亡を経験した氏規.本作品はこの両名の生き様を見事に描く.
信雄は信長の次男であり,長男信忠,三男信孝が優秀であったとされるのに対し,愚鈍な人物として歴史上その名を残している.一方の氏規は関東北条氏三代目の北条氏康の五男であり,四代目を継いだ長男の氏政や五代目の氏直よりも優秀であったとされる.信雄も氏規も,直接的か間接的かの違いはあるものの,豊臣秀吉によりその力を奪われた者である.愚鈍であっても優秀であっても,“日本国開闢以来おそらく最も自己肥大化した人物”である秀吉からは,それほど大差ない扱いを受ける.その中で本作品は,「いかなる状況に置かれても生き残る」ということの大切さを教えてくれる.
本作品を読むと,織田家滅亡の一因となってしまった信雄も,北条家滅亡を止めることのできなかった氏規も好きになる.両名とも戦国時代の華ではないが,華となるような人物史を読み終えた方には,お薦めの一冊である.
織田信雄の人間的な魅力を発見
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織田信雄と北条氏規を主人公とし、その半生を描いた歴史小説。天下人織田信長の次男でありながらその恵まれた境遇と多くの機会を生かすことのできなかった凡庸な人物の代表格とされる信雄。武将としての才能が横溢するものの、その境遇と機会に恵まれることのなかった氏規。
天正18年の秀吉の関東攻略の際に成田氏の忍城と共に大いに善戦したとされる伊豆韮山城をめぐる息詰まる攻防と氏規の機略溢れる戦術描写は、周辺の砦群の配置を含むその詳細な縄張り図の掲載と共に戦国城郭に関心を寄せるものにとっては読み応えあり。
また、権力者秀吉によりもたらされた「清洲会議」「小牧・長久手の合戦」「小田原の役後の改易」などの屈辱のなかで、信雄自身が次第に自分自身の能力とその役割に覚醒していく様子は、これまで余り顧られることの少なかった信雄とその人物像に新たな魅力を投影している。
そののち豊臣氏やその恩顧の大名の大半が敗北・改易などにより滅亡していく中で、共にその最盛期と比較すれば少禄の外様大名ではありながらも、最終的には織田家と北条家の家名を後世に伝える礎となった信雄と氏規。こうしためぐり合わせは、見方を変えればこの二人の生き様に対する正当な天の配剤なのかもしれない。
「虚けの舞」を読みました
★★★★☆
伊東潤さんの北条シリーズ3作目ですが、回を追う毎に力がついています。「虚けの舞」の主人公は「織田信雄」と「北条氏規」。これまで誰も思いつかなかった人物の組み合わせで物語を語ったその意外性と新鮮さに惹かれて読みはじめました。
能力がありながら、敗者(北条一族)に連なるが故、それを活かす場を与えられなかった北条氏規。織田信長の後継者として天下を継承できたはずが、その器量のなさから落魄していく織田信雄。歴史に照らして事実がどうかは置くとして、戦国から太平に時代が動くそのとき、この二人に代表される様に多くの武士はその存在理由を失いつつあった。そういう時代の敗者の生き様にスポットを当てた、それが今の時代の我々の生き方も考えさせられるこの作品の魅力です。
あなたは北条氏規と織田信雄を知っていますか?
★★★★★
北条氏規は北条氏康の五男、織田信雄は織田信長の次男。
父親は主役として登場しても、息子である彼らがどのように生きたのかを描く物語は他に見当たりません。
特に氏規はコミック「花の慶次」でキレた氏政兄に困り果てている姿が御労しく、「夢のまた夢」で、秀吉の前で小さくなるしかなかった無力な姿がまたさびしいのですが、
正面から小説の題材として取り上げられたものはなかったので、「いつか彼が主人公の小説に出会えますように」と、ずっと思っていました。その願いが叶いました!
小田原合戦後、北条家の血脈を伝えていった氏規の姿。そして信長の息子である信雄の流転の人生。秀吉によって運命を左右されたふたり。
朝鮮出兵最前線の名護屋の陣を舞台に、二人の回想を織り交ぜ鮮やかに描かれる「その後」の彼らの軌跡を是非。