宮脇さんの晩年の旅は、主体がどちらかというと興味より体力の限界との闘いにあったようで、各編につらそうな表情が見え隠れして痛々しい。もともと宮脇さんの紀行には体を張った部分が多かっただけにご本人もさぞ不本意だったと思う。さびしさを禁じ得ない。
ところが、後半の解説・書評には一転して全盛期を感じさせる迫力に満ちた力強い文が次々に現れ、宮脇さんはこんなにも凄い人物だったのかと圧倒された。紀行文よりむしろ書評にこそ、作家としての真髄が発揮されているのではないかと思うほどである。宮脇さんの短い文章に内容を凝縮する才能と、名編集者ゆえの著者思い、読者思いの姿勢が成した偉業というべきかもしれない。
では、このすばらしき「感想文集」に「感想文」を添えるのは誰か?
それは、他ならぬ実娘の灯子さんだった。一流の文章は一流の人間にしか書けない、という信念を持ってつねに自身と格闘した父を客観的に見つめるには、肉親の「生々しさ」を乗りこえなければならなかったという。解説「父のこと」を書くにはかなりのエネルギーを消費されたことと思う。
しかし、灯子さんのおかげでこの本はずいぶんと厚みを増した。なぜなら、これほど身近な解説が書ける立場にあるのは肉親である灯子さんをおいてほかにいないからだ。「父のこと」もまたすばらしい「感想文」である。
読んでよかったな、としみじみ思っている。