「平凡な男」が見せた勇気―過去への反省、将来への備えとして
★★★★★
本書は、『ホテル・ルワンダ』のモデルとなったホテル支配人が、
100万人が殺された大虐殺がどのようにしておきたのか?
そのとき、ホテルの中で何が起きていたのか
そして、どのようにして1200人以上の命を救ったのか
―を当事者の視点から克明に記したノンフィクション。
それまで普通に暮らしていた隣人が、ナタや銃を手に襲ってくる恐怖
追い詰められたホテルの中で、いつ虐殺が始まるのかわからず怯える日々
そして、関心すら示さなかった国際社会への絶望
抑えた口調ながらも、やり場のない感情が端々からにじみ出ています。
人を殺すことが衝撃的な出来事から、単なる作業になっていく―など、
過去におきた出来事もさることながら、
その当時レイプされた女性やそれにより生まれた子どもの多くが
HIVを発症しているという記述には言葉を失いました。
当時、著者のように虐殺から逃げる人々をかくまったり
命令に反して虐殺に手を貸さなどの勇気を見せた「普通」の人々がいた一方で
虐殺に加わりながらも、それまでどおり暮らす人々や
本来は自分のものではない家に住む「普通」の人々もいるとのこと―
ある日、隣人が他者になり自分に襲ってくる
あるいは、自分が隣人だった人々を襲うことは決してありえないことではない。
その時、自分は正しい決断をできるのか
いずれ来るかもしれないその時に備え
歴史を見つめなおし、思考力を鍛えるのに欠かせない著作だと思います☆
ことば
★★★★★
映画『ホテル・ルワンダ』の主人公ポール・ルセサバギナ自らが、ルワンダ大虐殺事件を回顧、総括している。
ノンフィクションとしては本人が筆を執っていること自体が貴重だ。加えて、ポール・ルセサバギナがとても言葉を大切にしているため、本書のメッセージは繊細であるが、知的であり、そしてとても重たい。この本を読む前は、恥ずかしながらルワンダについてほとんど無知であり、虐殺事件についても理解が乏しかったのだが、彼の文章は、何故、こんなことが起きたかを冷静に分析し、その時、ルワンダ人が何を考えていたのかを克明に伝えてくれる。
なにしろ、冒頭で虐殺の一因は言葉の使い方を誤ったことであり、一方で人々の命を救ったのも言葉だったと言い切っているのだ。言葉は非常に大切だ。一番最後の章で虐殺事件が総括されているが、言葉を大切にする人が、推敲に推敲を重ねた言葉は非常に重たい。