本書は間違いなく良書ですが、マスコミ受けするような緑のダム礼賛論を一蹴していますので、覚悟してください。
森林の能力に関しても、賛否両論。節ごとに異なる結論が出ている場合もあります。
そして、最適な治水方式を選択するための試みは始まったばかりです。吉野川流域での討論会が紹介されていますが、未だ道半ばです。
水と山と森に関わる多くの方に読んでいただきたい。緑のダムを生かすか殺すか。本書を読んでいるかどうかが決め手になるでしょう。
川をとりまく環境問題(むしろ,公共事業問題?)がクローズアップされるとよく出てくるのがこの”緑のダム”という言葉.
昔に比べて洪水が増えたのは,山が荒れているせいだ・・・なんていうのはよく出てくるはなし.
山をきちんと手入れすれば,山(森林)が水を蓄えて,ダムのような役割を果たしてくれる.
そんな風によく言われるが本当にそうなのか?
本書では,さまざまな立場の人が,その問いに迫っている.
しかし,見えてくる答えは,二つの壁.
「緑のダム」に対する世の中の過剰な期待と,現実の狭間で森林水文学者達が苦悩する.
それでも,なんとか緑のダムと呼べるような働きを示してみせるものの,やはりそれにも限界はある.
必要なのは,山(森林)に「できること」,「できないこと」を現実としてとらえなければならないということ.
その上で,何を捨てて,何を残し,何を作っていくのかをそれぞれの場所で考えなければいけないということ.
それは,そこに住む人たち自身で考えなければならないこと.
そして,私たち学者は,わからないなりにその問いに答える努力をしていくこと.
当たり前のことだけど,そういうことの大切さを確認させられた本でした.