雄渾、壮大なブラームス
★★★★★
ブラームスは後期ロマン派を代表する北ドイツハンブルク出身の作曲家である。しかし、ロマン派に見られる標題音楽や循環形式を用いた器楽曲はほとんど作曲していない。一方で、シャコンヌや教会旋法などいにしえの音楽的語法を用いて作曲された曲もある。そして、何よりも古典的な形式を遵守した作曲家である。彼の交響曲第1番は21年もかけて作曲された傑作であり後の三つの交響曲とは性格が異なる曲である。彼はベートーヴェンの音楽の理念を継ごうとする思いを持っていたが、断念した。それは、彼の性格が内向的で自らの理念を徹底して貫こうとしたベートーヴェンの精神とは異なっていたからであろう。芸術はそれを創造する者の人格を大きく反映する。そして、解説にも書かれている通り「ブラームスを理解するためには、彼の人格をひとつの統一体として把握し、広範囲な作品の中にその人格がかかる統一体として表現されていることを理解せねばならない」。この交響曲はこの時代にすでに伝統となっていたベートーヴェンの音楽との意識的な対決をした最後の交響曲であり、ブラームス独自の音楽への出発点でもある。すべての楽章を通じて厳格な意思につらぬかれているが、ブラームス独自の語法や優しさ、孤独、憧れの感情が充溢している。それゆえに、伝統に基礎を置きながら、そこに新たな表現を模索した傑作交響曲として人々の胸に深く響くのだろう。私もこの曲は非常に好きである。そして、このべーム指揮ベルリンフィルの演奏でいつも聴いている。奇をてらわず直裁的に真摯に演奏しているため、聴きとおした後は深い感動に包まれる。この交響曲の意味が自然と心に染み入ってくる素晴らしい演奏である。