忍者を主人公にした短編集
★★★★★
この本の五篇の短編に出てくる忍者は、みな凄腕の達人ですが、少し悲しい。
○ 必要な時だけ雇われ、仕事がなくなれば去ってゆく
○ 立派な働きをしても、武士にはなれず、卑しい身分のままで差別され続け
○ 下忍の手取りは雀の涙で、いつまでたってもその日暮らし
○ 結婚もせず家族もない。年をとれば、仕事はなく、最後はのたれ死に同然。
○ 使い捨てられていく忍者。
なにか、現代の派遣社員とダブります。
しかし、この悲しい忍者たちですが魅力的です。
ただひたすらに運命に従い、忍術の限りをつくして
殺し、殺されてゆく凄腕の忍者たちは、悲しい運命を突き抜けた高みにいる
ようにさえ感じます。
司馬遼太郎が、新聞記者時代に書いた作品であり、新聞記者と忍者をダブらせて
書いたのだろうと解説にあります。特ダネをとっても名前が出ることはなく、
金銭的な見返りもほとんど無い新聞記者に忍者をダブらせているとのことです。
名誉にもお金にも縁が無く、自分の命さえ危険だが、将来のことなど考えず、
ひたすら今を生きていく忍者たちは、新聞記者であり派遣社員であるように感じます。
これら報われない仕事に就いている人たちの生は、悲しく見えるけど、
空しくはないことを淡々と説いているようにも思えました。
名作です。