傍系宮家の浮沈
★★★★☆
旧皇族久爾宮家 朝彦・邦彦・朝融3代の生涯を追ったファミリー史。
印象希薄な戦前の傍系皇族の中で抜きん出て奇矯なこの宮家3代は、単にスキャンダル記としても十分面白い。しかし、著者は史家としてのスタンスを外すことなく、時代の大局をふまえ、厳密に資料のもとづいてこの宮家の史実を追う。
この姿勢により、宮家の話を越え、近代日本の生みの苦しみをも描きす。
近代化途上国家日本の舵をとる政府中枢にとって、天皇制の脇役・傍系皇族は必要不可欠な機関ではあるものの、いかにも取り扱いにくい集団だったことがよくわかる。
非主流宮家は、天皇のスペア系としての役割を500年にもわたり連綿と続けてきた末、敗戦をもって消滅し、ほとんど忘れ去られた。近時、(過度の?)民主化とスリム化の挙句、現皇室が絶滅の危機に瀕するに及び、このやっかいもの復活の議論が出てきているのは、何とも皮肉だ。