静謐、明朗なミサ曲の名盤
★★★★☆
シューベルトで1曲だけ選べと言われれば、呻吟の末、この作曲家の最後の年に作られた『ミサ曲第6番』を取ることになるだろう。
ところがディスクがあまりにも少ない。ジュリーニとバイエルン放送響のディスクは、その渇きを癒す1枚だ。
静謐な演奏であるが、明朗開放的な風通しがよいとでも言うべき演奏であり、ゆったりとした気分で音楽に浸れる。これがヴァントなどになれば、謹厳拝聴せねばならなくなる。それは勿論、偉大なる演奏なのだろうが、繰り返しては聴けないだろう。ヴァントにこの曲のディスクがあったかどうかは知らないが。
第6曲「精霊によりて」の穏やかな、そして美しい三重唱と「十字架」のテーマの対照。
生命の喜びと、「ピラトのもと、我らのために十字架につけられ」という受苦、イエスという稀有なる人間の人生がこの短い楽曲のなかに封じ込められている。ジュリーニは、それをあくまで晴朗に慎ましく描き出し、よい曲だなあと素直に思わせてくれる。
『ミサ曲第6番』を通して聴くと、後代のブルックナーへのつながりが見えてくるような気もする。このあたり音楽史的にはどうなのだろう。同じ宗教曲ということもあるが、ブルックナーの『テ・デウム』や『ミサ曲』は、第6番の直系ではないのだろうか?
カトリック文化圏であるミュンヘン地方のバイエルン放送響も素晴らしい。音楽が少しもうるさくならない。控えめながら力のある金管、ティンパニ、美しい弦群。重厚ながらこれまた影のサポート的な低弦。いずれも見事である。
同響の合唱団も、少人数の合唱に較べれば時に厚ぼったいというところもあるが、瑞々しい安定した歌唱だ。