しばらく休んで
★★★★☆
上巻にも書きましたが、この作者は千里眼シリーズについてはもうやり尽くしていると思います。
もともと催眠みたいなヒューマニズムの味付けがあるミステリーが得意だったはずの人なのに、
無理して漫画みたいな話を書いて、一部熱烈な千里眼ファンに応えてきました。
そういう千里眼ファンは一般の小説読みと違って、子供っぽいことに腹を立てて、必死で作品を
自分たちに引き寄せようとし続けていたように思えます。
また、やたら小学館版は素晴らしかったとかいいますが、角川版クラシックシリーズは正直、そんなに変わってません。
初期の作品の書き直しは明らかに良くなっていると思いますし。
最近のこの作家の、簡素化された文章は読みやすいし、角川版から入った人はそれでいいと思ってます。
ミッキーマウスの憂鬱に比べ、古い作風に戻った今回の作品のレビュー数の少なさと売上順位の低さが、
一部ファンの主張が大勢と食い違っているのを示していると思います。
実社会でもおじさん達は声がでかいものですが、ネットでもそうですね。
レッテルも何もかもすべてを受け入れた岬美由紀の強靭さに酔いしれる
★★★★☆
岬美由紀の少女時代を導入部にした上巻冒頭、美由紀はなにもかもが現在の岬を小さくしたかのようなスーパー小学生であった、そんな幼少のエピソードが各章に散りばめられていく下巻。荒唐無稽で、実際は無理であろうと思われることが松岡マジックによって現実味を帯びて読み手のページめくりを止めさせない。
メフィストコンサルティングからノン=クオリアに敵が代わっていったことはもちろんだが、今作では新シリーズの娯楽性に加えクラッシックシリーズで多かった説明臭さも逆に新鮮で読みごたえのある作品となっている。登場人物に蒲生のあとを引き継いだかのような久保田の存在、憎らしくも愛すべき新キャラクター益山は今作品でいいスパイスをきかせている。また、時事ネタを織りまぜるのも松岡作品の面白さだが、最新鋭の護衛艦ひゅうがが登場する(とはいえ本文にはそれほど関係ないのでネタばれにはならないはず)ことも驚くが、F15J以上の装備をもった航空機を自衛隊が配備したとき、岬がどうするのか、いまから楽しみである。
新シリーズからかれこれ経つが、千里眼を拒絶しながらも、一方で千里眼を受け入れた岬美由紀はさらに強く、慈愛にあふれている。ただひとつの心残りは岬が放浪(というわけではないが)しているときの事件だったことで、ナイスなキャラクター舎利弗との会話がなかったことである。