教師の力量もさることながら、それを育て、発揮させることのできる社会構造あってこそ。
★★★★☆
PISAの高順位により、フィンランドを訪れる教育関係者や為政者は多いが、日本で何故それが導入できないか?
簡単な事だ、大学にブランドはなく、職業の貴賎もない、高校からは教材費が自己負担になり、大学では給食費も必要だが、学費は無料、義務教育中では文房具・交通費まで無料、教育内容は教科書選定まで現場に任せる、といったフィンランドの価値観まで含め、丸ごと導入すればいい。
それができないのに、教育だけを真似しようとしても上手くいくわけがない。
教育は社会の縮図でしかないからだ。
20年勤めた教師は、自身の教え子であった配管工よりも安い賃金だが、その資格取得は修士取得、小学校担任で12週、教科担任で19週のできるまで続く教育実習と、困難であるが故に社会的に尊敬され、転勤無しで学校改革や実践研究を継続できる。
その採用は、校長・学校スタッフだけでなく地域の保護者代表による採用委員会が決定し、生徒に対してはカウンセラー・サイコロジスト・看護師・進路カウンセラー・市の福祉課などが協力して当たり、教師や学校側の負担を軽減する為のチームも組まれており、教師にも生徒にも良い環境作りがなされている。
このようなシステムごと見習う気があるのかが問われているのだ。
フィンランドの教員のリアルな姿がわかる
★★★★★
本書はPISA調査による学習到達度調査で世界一の座を保持し続けているフィンランドの教育について、それを支えている教師についてレポートした本です。
フィンランドの教育制度は平等主義的であり、極めて手厚い予算配分がなされています。小中では給食はもちろん、通学費や教材費まで無料。学習の内容は最先端のIT教育から、音楽ではバンド活動、体育では釣り、英語の授業ではビンゴゲームなど、創意工夫のある授業が展開されています。
そういった創意工夫の授業、学校運営を支えているのが教員たち。フィンランドでは教員の地位が高く、みな修士号を取得していることは近年よく紹介されていますが、その研修と実践の実態はあまり紹介されてきませんでした。本書では就学前教育から小中学校、高校の学校の生き生きとした様子や、森や湖で行われる授業、各種分野の専門家集団や手厚い生徒のサポート体制、教員の一日など、教師と学校運営の様子を多面的にレポートしています。
また、タイトルに「教師の育て方」とあるように、本書の半分ほどを教育実習と教員の研修の実態に当てています。大学入試の時点で大幅にふるい分けられること、教科担任教師の実習時間は500時間にも及ぶこと、授業後の詳細な検討会、教員のチーム会議の様子、そして実習生の授業のじっさいなど、貴重なレポートが続きます。教師の質を維持するために、現役の教員に対するサポート、研修も充実しており、教員研修コンサルタントがいたり、学校運営の大幅な権限を有する校長のための研修があったりと、2重3重のサポート体制に驚くばかりです。
本書は日本の高校の教員の目から見てレポートされているので、日本の学校との比較が常に念頭におかれており、大変わかりやすいです。フィンランドの教師の姿を見ることで、日本の教員のおかれている状況のどこに問題があり、どのように改善をはかっていったらよいのか、強く示唆されたような気がします。本当に子どもたちを主体とした教育を行うには、まず教員の無力感を解消し、子どもと正面から向き合えるように環境を改善することだ。現場で日々奮闘する学校の先生たちに読んでもらい、ぜひ元気を出してもらいたい、そういう本です。
考える素材として
★★★★★
本書では、実地の取材に基づいて、教師教育の充実ぶりと、
各学校の自由度の高さなどが紹介されています。
私が特に関心を持ったのは、結構年かさの方が教師になるために
転向を果たされている、ということや、先生方の自立ぶりです。
会社経営をしている先生が居たり、日本では考えられないほど
若くして校長になるなど、非常に個人主義が徹底している国柄
なのだな、と感じました。
また、教師の研修制度についても、現役の教師の方がそのテクニック
を公開する、という形になっており、日本で教員免許更新制度と共に
行われようとしている大学に依存する形での研修制度とは、
大きく異なるような気がしました。
というか、現役教師がテクニックを公開、というような研修制度は、
今の日本でも民間ベースで行われているのではなかったかな?、と。
良かれと思って外国の制度を導入する際、権威主義が入ってくるのか、
妙にねじれた形でしか日本国内に実現されないのは、不思議なことです。
素朴なルポルタージュである分、色々考える素材になってよかったです。
優秀な教師が育つフィンランド流学校教育のルポ
★★★★☆
著者はPISAで世界一の学力を維持したフィンランドという国について、世界最大のシェアを誇る携帯電話会社のある国、ウィンドウズと拮抗するOSソフトを生んだIT先進国、サウナやキシリトール、ムーミンを生んだ国、人口が北海道と同じくらいの国、学校の夏休みの長さ、ソ連崩壊当時は失業率が20%に達した国、大学はすべて国立・・・といった冒頭のインフォメーションで親近感を高めてくれた。
そして肝心の「教師の育て方」だが、特色の一つとして、日本とは比べものにならないくらい長時間の「教育実習」が紹介されている。
本書は、タイトルだけにひかれて「教員養成プログラム」の参考にしようとすると、期待はずれに終わるだろう。
実質的には、著者によるフィンランドの各種学校のルポである。
タイトルとしては、「優秀な教師が育つフィンランド流学校教育」の方が適切だったかも?
学力世界一の秘密は、当たり前のことを続けることだった
★★★★★
学力世界一で一躍注目されたフィンランド。その秘密は何か。著者は何度も現地に足を運び、学校現場や教員養成の過程を取材した結果、当たり前の教育を愚直に実践していただけであることに気づく。著者自身、日本で教師をしているだけに、日本の教育の現状と対比しつつ見る視点は、地に足がついている。
日本の教育改革を考える上で必読の本だと思う。