秀逸な経済学(説)史
★★★★★
これほど平易に、しかもレベルを落とさずに書かれた経済学(説)史
の本を私は見たことがありません。しかも文章がウマイ!!著者の能力の
高さとセンスの良さに、座布団三つあげたいくらいです。
記述の範囲も、ケネーからセンやネグリまでとバランスがとれている
し、「資本主義のグリーン化」など現代の経済問題にまで言及している
ので、学(説)史の範囲を超える知識も得られます。
これまで経済学(説)史や社会思想史の本といえば、内容や表現を含
めてその難渋さが一つの売り物であったように思いますが、近年、たと
えば、若田部正澄氏の『経済学者たちの闘い』や山脇直司氏の『社会思
想史を学ぶ』などのように、ある一定のレベルを保ったまま思想を平易
に語ろうという動きが活発化しているように思います。その流れの中で
も、本書は特筆に値するすぐれた本だと思います。
著者には、さらに専門的な学(説)史の本の執筆を望みたいと思いま
す。
やや物足りない
★★★☆☆
一つの経済学説史として一読に値するかもしれない。ただ、はしがきに「研究者は学問全体を鳥瞰できるような包括的研究を行っているのではなく、特定の領域における特定問題を専門にしている」と断ってはいるものの、ケネーの経済表や資本論について詳述しながら、ファイナンス理論、ゲーム理論、行動経済学について一切触れていないのは何とも片手落ちの感がある。近年、ノーベル経済学賞受賞者を輩出し、理論面のみならず実務の世界でも進化著しいこれらの分野を閑却して、経済学の潮流を語れるものか、はなはだ疑問である。また、「経済学を学ぶ意味とは何かー読者への期待を込めて」では、環境問題に多くの紙幅を割く一方で、リーマンショック後のいわゆるグローバル金融危機については経済学的知見を披露していない。要すれば、経済学をこれから学ぼうとする学生の入門書としては良書とは言えても、理論や現実問題について一定水準以上の蓄積のあるビジネスパースンは少なからず物足りなさを感じるだろう。
自然の体系から人為の体系へ〜「社会科学」としての経済学を問う好著
★★★★☆
これは優れた経済学入門である。
市場と国家の関係、自然と人為の体係、金融経済と実物経済の関係、経済主体の問題、動態的視点の5つの視点を設定し、ケネー、スミス、リカード、マルクス、ピグー、ケインズ、シュンペータがそれぞれどういうスタンスを打ち出しているかというところから経済学を検討している。
その“心”は、「社会科学としての経済学」である。こういう試みは、現今極めて稀であり、評者は森嶋通夫張りの気宇の大きい、グランドデザインを志向する本物の経済学者の仕事を見たという気がする。
学部生は勿論、広く社会人にも手に取る価値のある1冊。但し、記述は緊密であり、“腐れ”自己啓発書(K女史とかの本ですな)とか「すぐわかる」系のファストブックばかり読んでいるお気楽下流読者にはキッツイかもしれない。
自然の体系から人為の体系へという視点が、社会科学たる所以である。自然科学への誤った憧憬とその後の財界およびエスタブリッシュのためにする経済政策(実際にはこれまた大いに人為の体系なのだが)が、経済学を似非社会科学としてしまったのである。
(中身のそれぞれに就いては、評者なりに愚考するところもあるが、それを書くとこのところ全然掲載されないので控える。)