しかしカエサル本人は王冠をかぶったり、帝位についた事実はない。あまりにも巨大になったにも関らず相変わらず都市国家の形態から抜け出られない共和制ローマを「一人支配」という原理で構造改革し世界帝国になる道筋をつけるべく腐心した現実的な「ローマ市民」としての政治家というのが彼の本当の姿である。本書は、カエサルの行動を青年期から悲劇の暗殺までたどり、その卓越した政治力、恐るべき視野の広さ、そして改革者としての「孤独」に迫っている。カエサルは共和制ローマを帝政にすることで、後のヨーロッパの枠組みを作ったといっても過言ではない。だからヨーロッパを知りたいならカエサルを知る必要がある。
現代の複雑怪奇な政治にあっては、アレクサンドロスやナポレオンのような英雄が現れて、華々しい活躍をするような場所はないだろう。むしろ古来の伝統・制度や人間的なしがらみと格闘しながら、新しい地平線を拓いたカエサルの生き様こそ、現代人に共感できるものがあり、注目すべきものがある。