会ったことのない人々が次から次に現れる
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情報が急激に広がる時には、そこに、広い分野に散らばる数多くの人々と浅くつながる少数のキーパーソンが存在する。
今、社会学や経済学の分野で最も注目を浴びるこの理論を、「もし、そのキーパーソンが悪意を秘めていたら?」と仮定して展開したホラーミステリーです。
三人称一視点でもなく、神の視点でもなく、三人称で視点が唐突に入れ替わる記載法を取っているため、読み始めは混乱することと思います。
作家は元々不安定な筆力の人ではなく、おそらく今回の視点の混乱は意図的に設計されたものと思われます。結果、非常に不安な雰囲気を作成するのに役立つ他に、登場人物の内面を掘り下げる効果が得られています。
牧野さんは、個性的な人物造形にすぐれた作家ですが、その造形があまりに特殊であったため、今までの作品では、人物に感情移入しづらいという欠点がありました。
今回、人物の強烈な個性はそのままに、その心理が深く掘り下げられたため、各々の人物の異様な行動原理が、普通の人間にも納得のいく形で提示されています。とうてい理解しがたい人物が、奇妙なことに理解できるのです。
そうして立ち現れた個性的な人々が、各話毎に一人、表舞台から惜しげもなく消されていきます。もったいないというか、贅沢というか。
ことに、死んだ人物の幻を見る女性刑事が、その幻をけっして幽霊とは呼ばず死者と呼び、「死者には生前の時よりも二歩ほど親しみを感じて近づいていく」という描写の素晴らしさには、みぶるいしました。
けっして似た人物のいないだろう女性。だが、彼女のすさまじい孤独がまるで自分の物のように感じられて。
まさに、個性の陳列箱。どこまで手数があるのかと、ほんとうに感心しました。
悪いやつらをどうすればいい? マキノ初の本格警察小説!
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舞台はいまのこの国にあってもおかしくない架空のある町。
主人公(集団)は「ダメなほうのトクソウ」警察内部にできた架空の組織。
章ごとに、ひとつずつ丁寧に描かれる事件のほとんどは、わたしたちが日頃ニュースで目にしては「ああ、また……」とため息をついてしまうあの手のものたち。虐待や、性犯罪など、弱いものは自分の感情の赴くままに餌食にしてしまってかまわないと考える(あるいは開きなおった)ひとたちを起因とする、悲しくも愚かしくおそろしいあの手の犯罪たちだ。
加害者と被害者と捜査するものが絡み合い、ひとつひとつの事件はしかるべきところにおさまっていくが、その都度、禍根が残り、謎が深まっていく。
どうやら、それには、ひとを確実に狂わせるある装置がかかわっているらしい。
牧野さんのいつもの世界同様、デンパなひと、正義のひと、老人、家族や家庭を失くしたひと(ホームレス)、やたら強くて美しい女性、などがあまた登場し、活躍する。だれは信じてよくて、だれはだめなのか、最後の最後までわからない。が……一見「ふつう」で小市民的にマジメなひとたちがいちばんコワイ、かもしれない。
『破壊』を読みおわるころにはまちがいなく加速度がついてページをめくりまくっているにちがいないので、『再生の箱』と二冊セットでお求めになることをおすすめする。