〈不確かな自己〉に対する確かな肯定
★★★★★
柴田元幸『それは私です』新書館、2008年
短編小説ともエッセイとも知れない柴田さんの本をブックオフで見つけて即購入しました。
現代アメリカ文学の紹介者として、いまや第一線の活躍をされている柴田さん。ポール・オースター『幻影の書』(柴田元幸訳、新潮社、2008年)も買ったままで、ほこりを被っています。ああ、時間があれば、すぐにでもオースターの小説世界に入り込みたい…。
そんなことを思いつつ、とっつきやすそうな柴田さんの『それは私です』を読み始めたのですが、あいかわらずに柴田さん、「死んでいるのかしら」ん? と自問を繰り返します。
そこにあるものをぼくは「〈不確かな自己〉に対する確かな肯定」と呼びたいと思います。
深い意味はありません。そんな気がするだけです。だって柴田さん、いつでも幽霊やら分身やらのお話ばかりするのです。そこに動揺はみられません。〈自分は不確かな存在である〉ことの確かさを、きっと心の底から信用しているのでしょう。でないと言えません。簡単に「それは私です」なんて。
それにまた、挿絵がよい味を出しています。
ゆっくりとした読書が楽しめそうです。