インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

化粧 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,029
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
Amazon.co.jpで確認
息をのむエロス ★★★★★
13回忌である。

1992年にこのすぐれた作家が亡くなって以来、この国には小説家が現れない。「岬」から中上健次の神話が始まったというのは、怠惰な伝説にすぎない。中上健次は、この「化粧」から滝登りを始めて、世界標準を突破したのである。それは、全米賞金女王になった岡本綾子よりも、ずっとはやい。あの、ドジャースでラソーダ監督に抱きしめられた野茂英雄に先行すること20年なのだ。誤解のないように断っておくが、世界標準というのは、現今のオリンピックの標準突破記録の如きものではないのである。世界標準とは、ダンテでありシェークスピアであり、そしてドストエフスキー、そしてかろうじて、フォークナーとH・ミラーが突破したラインのことなのだ。へミングウェイは届かなかったと私は思う。

中上健次は作品中で不吉に予言を繰りかえしていた通り、あるいは自ら執拗に反復しつづけた中本の一統の作品中における主人公たちの宿命通り、生の真っ只中で、その創作道程を断ち切った。そこは断崖絶壁のままで、そこを踏破しようと試みる俊秀はこの十年余り誰もいなかった。

出でよ、俊秀。まず、この「化粧」に惜しげもなく散りばめられた、息をのむエロスに思いをいたすことからはじめよう。このような散文はこの国においてかってもなかったし、恐らくはこれ以後もその出現はおぼつかないのだ。
このような、時空が変容するような磁場を通過した者のみが、あの「枯木灘」へ推参する資格を得るのだ。