たとえ過渡期的存在であろうとも
★★★★☆
例えばイノヴェーション、例えばアントレプレナー、例えば創造的破壊。
書店の店頭を見渡せば、必ずや目にするであろうこれらの単語群が、経済学者ヨーゼフ・
シュンペーターの理論を象徴するものであることは周知の通り、しかし、いかにも華やかな
その字面に目を奪われてばかりでは、彼の「思想が矮小化されてしまいかねない」。
「本書は、ケインズと並んで20世紀経済学の天才と謳われたシュンペーターの生涯と思想を、
幅広い読者を対象に、できるだけわかりやすく解説した啓蒙書である」。
本書に骨格を与えるキーワードは「シュンペーターのパラドックス」。
そもそも彼の知的源泉はワルラスの一般均衡理論、そうした「静学」をベースとしつつも、
アントレプレナーに代表されるように、彼の思想はあくまで「動学」たらんことを志向する。
そういった彼の持つアンビバレントな相に光を当てることを通じて、決して一筋縄ではいかぬ
この「社会科学者」の深層を読み解いていく。
彼の人物をめぐる印象批評についてはコメントを避けるが、理論をめぐる根井氏の解説は
入門書と言いつつもその射程を超える奥行きを見せ、実に明瞭なもの。
昨今は、間宮氏による『一般理論』の新訳出版に象徴されるように、ケインズ経済学が実に
熱い。そんなケインズの批判的読解を通じて(批判ということばは必ずしも否定を意味する
ものではない)より深くその思想を理解するためにも、シュンペーターのテクストは非常に
有効なものと思われる。
対象とされた啓蒙対象の「幅広い読者」の一人として。
★★★★★
さまざまな意味で華やかなネームといえるであろうシュンペーターの経済学について多少知らないわけではありません。本書の著者の著書にも触れる機会が少なからずあります。おそらく現代の経済学を専門とする方々はこの本をそう気に留めないであろうとも思います。しかし、この小さな本を透明な珠のように思いました。「象牙の塔の中」の経済学者の書いた本を涙を流して読むとはまことに不覚でした。幾度読み返しても。著者自身がおそらく絶望的な瞬間も多々あったであろう短からぬ闘病経験に遭遇したあと、人の苦しみや痛みや生きることの滑稽さを自分のものとしてわかる(これは多くの経済専門家の方々にはあまり該当しないことではないかと僭越ながら思ったりします)そういう時期に書かれたものであることがさらに感動を誘うからでしょうか。
シュンペーターの経歴がよく分かる
★★★★☆
幼少からのシュンペーターの経歴が詳しく解説されている。
そういう情報が知りたい方にはよい。ただし、シュンペーター
の思想、論文の内容について知りたいといういう向きには、
おそらくあまり満足できる内容出はないと思う。情報の絶対量
が少ないと思う。専門書のイメージの講談社学術文庫であるが
本書は、シュンペーターの入門という位置付けですね。