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むらぎも (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,575
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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コミュニストの青春 ★★★☆☆
 ストーリーの面白さは、はっきり言って期待しない方がいいです。「歌のわかれ」にも出てきた登場人物が、大学でコミュニズムの運動をする様子が書かれているけど、「どうってことないじゃないか」と言いたくなることが多いです。強烈なインパクトも、意表をつく展開もありません。でも、にもかかわらず、叙述のふしぶしに何か微笑にもにた輝きがあるように思えます。なぜだろう。
 それは、作者の生き方と関わっているのかもしれません。一旦はコミュニストになったけど、国家の圧力で転向するしかなかった。そして仲間には理想に殉ずるものもいる中、せこい戦いをするしかなかった。ぶつぶつと現状に対するひそやかな異議申しだてをするしかなかった。そして戦後になったらなったで、「五勺の酒」にも書いたように、まだまだ社会には異議を言うしかない。
 そういう艱難辛苦、不条理、せせこましさを自分で抱えつつ、なお色あせない若かりし頃、青春。そういうものを、中野さんは信じたかったのではないか。だから不思議な輝きのある文が書けたのではないか。そう思います。
 ちなみに、本作を読んで太宰の「津軽」も少し思い出しました。