色褪せぬ言葉
★★★★★
以前から漱石全集は持っていたのだが、この薄い本はまだ読んだことがなかった…と、ふと本棚から手にとって読み始めた。
あまりの素晴らしさに絶句。
小説ではない、いわばエッセイであるにもかかわらず胸に残る深い読後感。
文中にはさまれた詩や俳句がまたよい。
胃潰瘍の悪化から、修善寺で保養することになった時のこと。
静かな筆で綴られる当時の漱石の心の景色はとても透明で、吐血等の苦しい経過が書かれているにもかかわらず、読むだけで不思議と遠くまで読者の心もはこばれてしまうような力がある。
読書の話からひろがっていく様々な物事への漱石の思索、ドストイェフスキーや死後の生についての言及もあり、読者も漱石と一緒になって、静かな布団の上で思いをめぐらすような気持ちで、この小さな本からひろがりゆく世界を感じることができるだろう。