短篇の名手。
★★★★☆
ここで描かれるのは、アイルランドで暮らすごく普通の人々の生活だ。だが、そこは短篇の名手といわれるだけあって、ミステリ的手法を用いた作品や子供が語り手の作品やユーモラスな語り口の作品などがあって飽きさせない。
なかには、一筋縄ではいかない作品もあったりして、けっこう奥が深い印象を受けた。この11編の中で一番印象に残っているのはやはり同社の「アイルランド短篇選」にも収録されている「国賓」だ。これはアイルランド紛争を背景に描かれる戦争悲劇の一種で、語り口が軽妙なだけに、その非情で不条理な部分が浮き彫りにされいつまでも後を引く印象を与える。
同じ背景で描かれながらも「ジャンボの妻」はスピーディな展開に手に汗握る思いがした。
また、ミステリ的な作品としては「法は何にも勝る」が秀逸。これは謎が解決されてすっきりするから精神衛生面的にも具合がいい。逆に結末がぼかされて謎が謎のまま終わってしまうのが「花輪」、「マイケルの妻」、「汽車の中で」なのだが、この三編の中では「マイケルの妻」に軍配があがる。これは人生の陰影がうまく表現されていてすごく惹きつけられるのだ。結局何がどうなったのかはわからなくてもね。家族を描いた作品では「ぼくのエディプス・コンプレックス」や「はじめての懺悔」のような子供を語り手にしたユーモア作品が目を引くが、「ルーシー家の人々」のように厳しい現実に直面するような話もあるので侮れない。
さり気ないユーモアが織り成す不思議の世界
★★★★★
日本ではあまり知られていないようですが、
知る人ぞ知るアイルランドの作家、フランク・オコナーの短篇集です。
いみじくもイェーツが「アイルランドのチェーホフ」と呼んだだけあって、
О・ヘンリーやモームのように派手なオチやドンデン返しは少ないのですが、
ユーモアを軽妙に織り交ぜた静謐な筆致による作品が揃っています。
作品全体に流れるミステリアスな雰囲気はそのことに起因するのかもしれません。
どの作品も話の筋を追いかけていくだけで十分楽しめますが、
中でも私がおすすめするのは『国賓』です。
この作品は日本でも早くから紹介があったというだけあって、
オコナーの代表作といってよいほどの出来ではないでしょうか。
「そのあとの人生は、僕にとってはまったく別のものになってしまったのだった」
という最後のくだりは、何とも背筋が凍てつくような感動を覚えますよ。