古典社会派SFの名著
★★★★★
社会や経済に多少なりと興味があって、シニカルだけれど少し力を抜いて暮らしている、そんな人ならニヤリとしながら読めると思います。
タイトルや設定は奇妙ですが、少し読めば独特なワールドに入り込めます。
きわめて洒脱
★★★★☆
情報化社会の今書かれたかのような、リアルに細分化された矢継ぎ早のレポート、それらが織り成す冷たく、軽い進行。人類の衰退といったって、よそ様の世界を見ているように気軽である。お決まりの聖書引用で締めくくられたこの作品、それぞれの読み手が駆け抜けてきた殺伐とした社会のうつろいを思い起こさせてひと時の感傷を呼び起こすでしょう。ただ、作品が世に出た時代と違い、人間が視点を変えてみれば世の支配者ではないのかもしれないなどという問いかけに、今やほとんどインパクトがないからこんな軽さも感じるのでしょう。
風刺性はもちろんのこと、先鋭的な小説技法にも注目を
★★★★★
1936年に書かれたサイエンスフィクションの古典中の古典。作者は、愛犬家の本”ダーシェンカ”やガーデニングの本”園芸家12ヶ月”などで日本でも名高い、チェコの国民的マルチ作家、カレル・チャペック。
ジャンルとしては人類滅亡ものに数えられよう。人間の言語を理解する新種の山椒魚が南洋の島で発見されるのが話の発端、それを人間が飼いならし、労働力として奴隷のように使役しているうちに、人間はどんどん山椒魚に依存していく。そしてやがて立場が逆転し、人類が滅ぼされてしまう、という悲劇的でも喜劇的でもあるストーリー。しかしなぜに山椒魚なのだろうか、とにかくとてもユニークなキャラクターである。
本書は非常に優れた風刺文学である、書かれた当時、ヨーロッパはファシズムの嵐が席巻し、民族主義の勃興もまた大きな問題だった。人類に一見安楽を与えるかにみえるかに見える思想や政治が、実は人類の未来に大きな脅威を与えていることが、この山椒魚というモチーフを使って象徴的に示される。後の世だから何とでも言えるが、当時の混乱した政治状況の真っ只中にあって、リアルタイムにこれだけ高度な風刺を成しえたのは、本当に素晴らしい。
もっとも本書の政治性・風刺性は小生が語るまでもなく、すでに数多の評者が賞賛しているところである。小生は本書ならではのユニークネスとして、その独自すぎる表現方法を取り上げたい。
本書には一貫した主人公がいない。また一人称の主観的な表現も存在しない。一貫した文章表現すら存在せず、すべて架空の新聞記事・報告書・演説・有名人へのインタビューといった雑多な文章の積み重ねなりたっている。特に有名人への偽インタビューの面白い事!
山椒魚の精神性というテーマで同時代の有名人は語る。
・もとより彼らに精神はない。この点、彼らは人間に似ている。(ジョージ・バーナード・ショー)
・彼らには、セクス・アッピールがございません。これは、精神がないということと同じでございます。(メイ・ウェスト)
・彼らは、面白い泳法とスタイルとをもっている。われわれは、多くのことを彼らから学ぶことができる。特に、長距離水路の場合にそうである。(トニー・ワイズミューラー)
この秀逸なパスティーシュのセンス、いかにも彼らが語りそうで、思わず笑ってしまうではないか!
このように本書はあたかも同時代の壮大なコラージュを見るがごとくである。そしてこの文体こそが、一個人の視点にとどまらない、社会の大きな流れやマスコミの愚かさというものを的確に表現し、本書の魅力の一端を担っている、と思われる。本書に遅れること60年、雑多な文章の集合体をもって一小説とする”アヴァンポップ”という手法が提唱されたが、本書こそが史上初のアヴァンポップ小説ではないか、小生はそう確信している。時代を見るに敏だった本書は、その表現方法でも時代を遥かに先取りしていたのだ。
岩波文庫の古典文学という向きで敬遠する人も多いだろうが、実に楽しく読める本である。面白い本を探す、すべての人に薦めたい。
不思議な臨場感
★★★★☆
著者の活躍したのが、歴史に翻弄される地であり時で
あったため、様々な遍歴を持つ書のようです。
私は佐藤優氏の「獄中記」にて本書を知りました。
少しまどろっこしくて長いな、と思えるところも少なくない
のですが、ゆっくり読めば、不思議な臨場感を与えてくれる
工夫であると気づかされます。
「へぇ〜、こんな風に世の中うまく行くのかな」と思っていた
ところ、最後の急展開の不意打ちに遭いました。
やはりSFは、こうでなくては、という感じです。
訳文も読みやすくて、お勧めです。
奢りはわが身を滅ぼす
★★★☆☆
「ロボット」の著者としても有名な、チェコの奇才カレル・チャペックの代表作です。
太平洋上のある島で、ひっそり暮らす山椒魚に似た奇妙な生物達。強欲な人間は彼らの平和を脅かし、私欲のために便利な労働力として狩り出します。地球上で最も優れ、全てを取り仕切っているのは自分達と過信する人類の傲慢さは、やがて自らの破局を招き....。
科学の進歩の果てに人類が辿り着いたものは何だったのか、現代の私達にも痛烈に問いかける作品です。