本書は、世界中でベストセラーとなった『生存する脳』(原題:『Descartes' Error』)の第2弾。著者のダマシオ・アントニオはアメリカでも指折りの脳神経学者である。本書のテーマは「われわれはどのようにして意識の光へと足を踏み入れるのか」である。「光の中に足を踏み入れる」というのは、意識や認識する心の誕生に対する、あるいは心の世界に「自己感(sense of self)」がもたらされるという単純だが重要な出来事に対する、説得力のあるメタファーであると著者は記している。学習・記憶障害などを持った患者たちの、健常者には考えられないような不思議な行動や発言の観察から著者が最終的に導き出したのが、意識とは「認識の感情である」という考え方だ。
著者は、本書で述べるアイディアが自己という問題を生物学的視点から明らかにするうえで役に立てば、と謙虚な姿勢を見せている。しかし、脳だけでなく身体を考慮に入れて「心」の問題に取り組んでいる著者の功績は評価されるべきであろう。そして、このオリジナリティーあふれる著者の研究の成果を目にすることで、脳神経科学、認知神経科学の面白さを実感すること請け合いである。(冴木なお)
そのプロセスをごくおおまかにいうとこんな感じ。
有機体(つまり人間とかの生き物)は、「原自己」という非意識的で安定した状態を保っている。そこに、カラスの飛ぶ映像とかセミの鳴く音とかの「対象」が現れると、有機体とその対象との間には「二次のマップ」という神経パターンがつくられる。ここで最初の原自己は変化し、「中核意識(その場その瞬間での意識)」へとステップアップする。さらに、その中核意識の状態がしばらく続くなどして強調されると、今度は「昔あんなことがあったよな」という「自伝的自己」の記憶が取り出され、高度な「延長意識(過去や未来のことにも対応した意識)」へとステップアップする。この延長意識こそが、言語や創造性や良心といったインテリジェントな部分をつくる。つまり、「原自己」→「中核意識」→「延長意識」といった流れだ。
脳の一連のプロセス自体がとても複雑で、話全体が難しい。それに、話のおさらいがあまりないことや、具体例が脳患者の症例に限定されることなども難しさを助長する(ただし、相貌失認や監禁症候群などの症例は非常に興味深い)。
前作『生存する脳』(これも難しかった)を読んでいないと付いていけないか? 「前作を読んでおくにこしたことはない」といった感じ。意識とは、感情とはといった話を脳と絡めて探求しているような科学好きの方ならば、いきなりこの本から読んでもなんとかなると思います。