バラエティが楽しい短編集
★★★★★
14編の短編には、ターザン物あり(初めて小説を読んだ)、メグレ警視物あり(久しぶりに読んだ)、奇妙な味、本格推理、SF的舞台、密室物と、作家とジャンルを総なめにしている感がある楽しめる作品集だ。
「ああ、やられた」と思う作品もあれば、「にやり」とする作品もある。「探偵作家は天国に行ける」に至ってはオチの仕掛けに爆笑だ。
早川ミステリを読んだのは久しぶりだった。推理小説をよく読んでいた頃、文庫本に比べて大判で洋書風の黄色い天地・小口は、読んでいるとなんか背伸びをしているような気持ちだったことを思いだした。久しぶりにまた背伸びをしてみたい気持ちになった。
本格推理好きの人にはお薦め出来ない。
★★★☆☆
あまり、お勧めできない。
これより、乱歩編の「世界短編傑作集」を再読するほうが楽しめた。
ミステリマニア垂涎! 希少価値のある幻の短編集
★★★★☆
’72年2月から翌年9月にかけて早川書房から<世界ミステリ全集>全18巻が刊行された。本書はその最終18巻目『37の短篇』から、今日ではまず他でお目にかかることの出来ないであろう14編をチョイスした短編集である。
いくつか挙げてみると・・・
「死刑前夜」ブレッド・ハリデイ:死刑囚の語る顛末には最後に大きなオチがあった。
「殺し屋」ジョルジュ・シムノン:ご存知メグレ警部ものの、ひとひねりある逸品。
「エメラルド色の空」エリック・アンブラー:スパイ小説の巨匠が挑んだ本格ミステリ。
「天外消失」クレイトン・ロースン:奇術師探偵マーリニーが、独特の、そして得意な手法で人間消失の謎を解く表題作。
「この手で人を殺してから」アーサー・ウイリアムズ:倒叙スタイルのクライムストーリーの傑作。
「ラヴデイ氏の短い休暇」イーヴリン・ウォー:最後の一文でぞっとさせるサイコスリラー。
「探偵作家は天国へ行ける」C・B・ギルフォード:一度死んだ男が真相を探るためにしばし現世に戻るというユニークな発想の一編。
「女か虎か」フランク・R・ストックトン:結末を読者にゆだねるというあまりにも有名な異色作。
このほかにも、ターザンが探偵役をつとめる類人猿ものや、火星人探偵が密室トリックを暴くSFミステリなどジャンルの隙間に嵌ってしまった作品をはじめ、本格もの、パルプフィクションものなど、本書は30数年の時を経て復活した、マニア垂涎の短編集である。
伝説の激レア・アンソロジー集『37の短篇』の復刻版(抄録)
★★★★★
◆「天外消失」(クレイトン・ロースン)
汚職判事を二人の刑事が尾行していた。
判事は停車場の案内所の前を通り、ズラリと並んだ
電話室に向かうと、真ん中あたりのボックスに入った。
判事がそのボックスに入ってから、二人の刑事は、ずっと、
監視していたのだが、いつまで経っても判事は出てこない。
不審に思った刑事達が、ボックスを開けてみると、そこに判事の姿はなく
受話器ははずれてぶら下がり、床には片方のレンズが砕けた角縁眼鏡
が落ちていた。
そして、刑事が受話器を取り上げ、話しかけてみると、なんと、
電話口から刑事をあざ笑うかのような消えた判事の声がした。
「手がかりが切れたよ、警部補殿」――と。
有名な《人間消失》トリック。
人間の先入観を巧妙に利用したミスディレクションです。
◆「この手で人を殺してから」(アーサー・ウイリアムズ)
養鶏場を経営する「わたし」は、自足した生活を守るため殺人を犯す。
その手口とは……。
倒叙形式で完全犯罪を描くクライム・ストーリー。
静謐な狂気を湛えた語り口が、きわめて現代的です。
◆「死刑前夜」(ブレット・ハリディ)
メキシコで鉄道工事を指揮していた「あたし」の許にアメリカから来た
サムという男が補欠の技師をやらせてくれないかと持ちかけてきた。
ちょうどその頃、アメリカのある殺人犯が、
メキシコに逃げ込んだとの報道があって……。
翌日に死刑を控えた「あたし」が、新聞記者に事の顛末を語り聞かせるという形式。
巧妙な語りの果てに結末で浮かび上がる真相は驚きとともに深い余韻を残します。
◆「探偵作家は天国へ行ける」(C・B・ギルフォード)
殺された探偵作家が、その殺害犯を突き止めるため、
事件当日をやり直すという、《幽霊探偵》ものの嚆矢。
貴重品
★★★★★
遠い昔に絶版になり、幻になっていた名アンソロジーの復活版。
とはいっても、ボリューム的にはオリジナルの半分もないわけだが、
他の短篇集や傑作集に未収録の作品が選ばれていて
満足感は充分です。
近年、注目を浴びる機会が増えた短篇ミステリですが
そのなかでも群を抜いた面白さでしょう。