協会賞評論部門ではなくサントリー学芸賞を
★★★★★
半分以上は初出で読んだからだが表題作の「複雑な殺人芸術」が初読だったこともあり、白眉であった。
ここではR・マクドナルドの書いた「ウィチャリー家の女」を法月は江藤淳バリの文体論を駆使して、巨匠の駄作をまごうことなき傑作に転嫁させる。
これはとうの昔に為されるべき仕事できちんとテクストを読み込めば誰にでも可能な作業である。
その怠慢を推理小説文壇は妄信なのに定説としてきたのだ。
ゲーデル問題やら聖書、固有名の問題など柄谷行人の受け売りが目立つが実は根底にキチンとテクストを読解する作業がある。
オタクと右翼が<文学は終った>と云えば商売になるプロバーな文芸評論家たちは、実は、法月ほどの仕事もしていない。
その法月、文庫解説では批評家ぶらないで、懇切丁寧に、日本ではよく知られていない作家の経歴や他の作品、自国での評価などファンが知りたいことをたっぷり教えてくれる。
ネットやコミケでプロ・アマの差異が無くなった時代に、オーソドックスな仕事をする著者の約15年の集大成。